真っ白なページの続き

例えば、これが自分自身で紡いだ物語であったならば結末はきっとそれなりに面白おかしく飾りたてるんだろう。
あの日、泣いていた少女は、独りぼっちだった少女は、もう泣くことはありません。これからは幸せが待っているのです。めでたし、めでたし。それが、幸福の象徴であると言うならば。顔にはまだ幼さの残る少女、濡れぼそった黒い子猫のような細い肩、雨の中何をするでもなく空を見上げていた何も映してはいない瞳。咄嗟に抱いた興味で話しかければたどたどしい言葉が帰ってくる。素直で、まっすぐで学のない言葉だ。貧相と評するには、少しだけ白濁かかった水の様に中身が見えにくいものではあったけれど。
そんな少女を拾い上げた青年と、少女と呼ぶには少しばかり歳を過ぎた女性の物語。あらすじだけをなぞってみても、とんだ三流ものになるだろうねと結局現実としてそこに居座る彼女に視線を送る。

「幻太郎、そろそろお昼の時間だよ」

まだ半分以上残っているページに栞を挟みながら、彼女が発したのは昼食の誘いである。大概、彼女の体内時計はしっかりしているものだと気が付いたのは、共に暮らし始めてからそれほど時間が経ってはいない頃だったと思う。あの頃から、十中八九、間違ってはいないと思っているけれど。彼女の「人生」というものを小生が面白おかしく飾り立ててみるのも悪くないと思ったのは、彼女の性分をそれなりに観察した結果だ。

「じゃあ、あげる。私の全部、幻太郎にあげる」

いつの日か何でもないことの様に託された彼女の人生そのものを嘘で埋め尽くしたなら。それは、「佐藤はな」という人間の物語は現実という本当へと成り替わるのではないか。そんなことを考えたのはいつだったか。そう遠くはない過去に、まるで世間話をするような口ぶりで伝えられたことを今でも覚えている。

「俺には願いがあってね」

それを叶える為に君の細胞残らず利用するかもしれないよと薄ら笑えば、私を必要としてくれるならとあまりにも純粋に、それは気味の悪いほどに笑う姿は、幼児のそれに近かった。

「余の願いが、君の様な行くあてのない人間を拾っては無体を働くことだと知っても?」
「それが幻太郎の願いなら、」

それでもいいよ、と嘯いた言葉を丸ごと受け入れる真っ白なページのその先を、人生を、描くことが出来たなら。もしかすると悪くないものになるのかもしれない。少なくとも、反吐が出るほど優しい世界でめでたしめでたしと、拍手を送るような三流小説には成り得ない気がした。
あの日もらった光を、どうしようもなくくだらない物語で返せるならばと。