ブランデーケーキ

少しだけ飛ばし損ねたブランデーが香る。
味見がてらに1口放り込めば、鼻の奥からふわりとアルコールが回る気がした。毎年のことながら、味は中々悪くは無い。少しばかり大人風味のそれは、翼くんに贈るには丁度いいだろうとフォークを皿の上に乗せた。

「今年はケーキ?」

突然頭上に降りかかった声と、伸びてくる腕に抱き込まれるように引っ張られて、油断していた体重は簡単に声の主の腕の中に収まっていた。

「チョコがよかったです?」
「なんでも嬉しい」

本命だもんね、と耳元を擽るように笑う。毎年のように「本命」を強調されるのは、翼くんなりの確認なんだろう。互いに分かっている理解を、改めて口にしなくても「本命」を渡す相手はこの先も1人しかいない予定だ。その確認が心地いいから、わざわざ指摘したりはしないけど。
私の首元に揺れる指輪の片割れを指先で弄ぶ。翼くんの指の中で揺れるそれは、契約の証だ。私を縛る、証。贈った本人は、私ほど強い独占欲なんて持ってはいないと思うけれど。その鎖は、私にとっては必要だから。いつの間にか肩口に乗っていた頭に、無理やり唇を寄せて頬に触れる。

「なぁに、」
「キス、」

したくて。その続きを言ってしまう前に言葉は口付けに飲み込まれた。近くで、ふわりとブランデーが香る。けれど、きっと頭がくらりとするようなこの感覚は、アルコールのせいではないんだろう。