自己防衛本能(3年秋)
てをのばしてもとどかないのならいっそふかくおちてしまえ
のばしてのばしてとどかなかったときこうかいするよりずっといいじゃないか
おちた先が深い穴か海の底か嘘か拒絶か絶望かもしれないけれど
もしかしたらそこは君かも知れないじゃないか
夜はあまりにも明るくて、見上げるたびにくらくらしてしまう。
ネオンがきらきら、ぎらぎら、ちかちか、まるで色が洪水しているみたい。
足元を見下ろすと轟音と嬌声が立ち昇って耳をごうごうとゆらした。
このままだとおちてしまう。
それはストンと私の中に納まる声で。
眠らないこんな夜には似つかないほど透き通った声。
空を見上げると、それはやっぱり空じゃない。
黒いけど黒くない夜。
明るいけど光じゃないネオン。
つくりものばかりだなあと漠然と思う。
「ねえ、何見てるの」
息を深く吸いこんで振り向いた。
赤やピンクや黄色やネオンは君の存在にかき消されていく。
繁華街のビルの屋上なんて、誰にも見つけられっこないはずだった。
だけど、探してほしくて。リョーマに見つけてほしくて。
それがすべての答えだった。
「わからない」
「自分のことなのに?」
「そう」
ふうん、と少し斜めに構える君を見ていると、少しずつ世界が日常を取り戻して行く。
落ち着きを取り戻していく脳内は寂しさを生み出していく。
「じゃあ俺が見ててあげる」
「何を?」
「アンタのこと」
彼はそう言うと手をのばす。
手のひらを天井へと向けて、合う視線は挑発的。
リョーマを見てると音にノイズが混じり始める。
揺らいでいく。
揺らいでいく。
私が揺らいでいく。
「リョーマと居ると私がだめになる」
範囲が狭くなればなるほど私はそれに依存する。
それはとても醜くて恐ろしい。
蟻地獄のような思考のループ。
気がつくと常に君のことを考えて、電子機械の画面には君からの文字の羅列ばかり並ぶ。
「アンタは俺にどうしてほしいの?」
薄汚い思考。リョーマはとっくにわかっている。それなのにさらに口に出せとせがむ。
英二には言えなかった言葉。英二だけじゃない、誰にも。
「好きとか嫌いとかそんな次元の話じゃなくて」
のばされた手は今でも空を向いていて。
掴んでいいよと私を呼んでいる。
「私は誰かに依存したいだけなんだと思う」
「アンタが俺を必要とするなら、そうすればいいじゃん」
ゆらゆら、ゆらゆら。
手のひらが揺れる。
「ねえ、俺じゃ足りないわけ?」
どこかでちゃんとわかってる。また同じことが起きるって。
「ひとりじゃ駄目なんでしょ?」
なのにどうして私はリョーマの手を取ってしまうんだろう。