野ばらの棘(3年秋)

野ばらの棘(3年秋)


唇が赤かった。
なんだか誘われているみたいだったから。
舐めてみると温かった。
右と左からノイズが入って脳が振動する。
私の世界に入りきらない音が零れてあたりに不協和音。

唇が開いて、舌が見えて。
何か形作って、少し待って。

それでも見つめ続けていたら今度はそれが近づいた。
唇の作り出す音は何にも聞こえない。
それなのにそれでもきっとリョーマはいいんだろう。


唇がくっついて。
リョーマはこんなに熱いんだと実感して。
触れ合う距離に初めてぞっとした。
温かいものが上唇をなぞって緩く開けた私の口内に入り込む。
首に寄せられた指が強く私を押すから。
距離はもっともっと縮まっていく。
歯列がなぞられて喉が鳴った、気がする。
音は何も聞こえない。
ヘッドフォンが強く耳に押しあてられる。
ひどく強く吸われて。息が止まりそうどころか。
全て持って行ってしまうようだ。
唾液が混ざって唇から垂れる。
ちゅ、っと吸われているような感覚。
舌が合わさって。ざらざら。
ぬるぬる。熱い。息が触れる。苦しい、気がする。


どれくらい時間が経ったのかわからないけれど。
ようやく離れたリョーマの唇は弧を描いて。
私の唇がじくじくと鼓動に合わせて振動する。
痛い、と声に出した、気がする。
ヘッドフォンが上にずらされて、急に静かになる。
落ち着かない、落ちつかない。
唇を舐める。ひりひりする。
痛くしたんだけどと彼は呟いて、唇を舐めた。

高音のビブラートが耳の奥で鳴ったみたく。
キンキンして頭の中が振動する。
「ねえ、アンタって、なんでそうなの」
「そう?」
「誘ってんの?」
指が髪を掴んで、するりと抜けた。
ぎゅっと掴まれると軋んだ音がした、気がした。
そのまま指が顎に下りて。
ゆっくり鎖骨に触れた。

「くちびる、いたい」
その視線が、ひどく、好きだ。
捕まえようとしている。
探られている。
食べられそう。

指が冷たい。
触れる唇よりもずっと冷たい。
ブラウスのボタンがひとつ落ちる。

「ねえ、ここ学校なんだけど」
「しってる」
そう呟いたはずなのに。
肩が強くおされて、壁に背がついた。
「どうしてほしい?」
空気が振動する。
ヘッドフォンが床に落ちた。

「うめて」

指先が絡まって、後頭部が壁をこする。
文字通り食いついてくるような。
一方的みたくリョーマは求めてくるけれど。
実際に溺れたのはどちらが先だったか。