水飴(3年秋)
あれから得たものは、いつも強気な私の絶対的な神様で。
恋人なんて生温い言葉では表せないような関係性、発狂しそうなくらいの熱。何時も付きまとう罪悪感。
あれから失ったものは、優しくて少し組み合わなかったパズルなんだろう。
どうしようもなく怖くなって、目が覚めるのは最早デフォルトになってしまった。
0時過ぎても眠れない私がようやく微睡み始める深夜。
目を閉じたら英二の顔が、携帯を開くと英二のメールが、瞼に浮かんで消えていく。
考えただけで頭の奥が冴えて、指先に力が入った。
胸骨を抜けて心臓が悲鳴を上げる。
下唇を噛む。
罪悪感で死ねたらどんなにいいだろう。
目をつむったままこうしてずっと、朝が来なければいい。
ての中の振動が骨を揺らした。
ベッドの中で、携帯の画面だけが強く発光している。
震えたそれが表示する名前にすがる。
今すぐに切ってしまえばいいだけなのだ。
指先が電源ボタンに触れる。
あとは簡単。私がほんの少し力を入れればすぐさま彼とのつながりは消えていく。
それなのに、どうして。
あんなに消えなかった英二が、頭から消えていくのだ。
『遅い』
耳に乗せた電子機器から一番最初に流れた文句に何となしの安心感。
肩の力が抜けて、ベッドの上で体育座りをした。
「ごめん。でも、今何時だと思ってるの?」
溜息交じりに口に乗せた返し文句。
あまりにも自然に唇から零れるその返答は、本心なのか嘘なのか私自身にだってわからない。
『寝てるなら電話にでないんじゃない?』
「今日はたまたま起きてたのかもしれないじゃない」
『アンタはたまたまで毎日深夜まで起きている人なんだ?』
可愛くない。本当に可愛くない。
そう思うのに、さっきまでの息苦しさが嘘みたく消える。
『嘘。拗ねないでよ』
「拗ねてないよ。感心してるの」
『何に』
「リョーマがいつもタイミング良く電話くれることに」
息苦しさは消えるのに、また胸骨がガツンと殴られている。
安心すればするほどなにかがぞわぞわ駆け上る。
『だってアンタ、気がつくといなくなってそうだし』
少しだけ低くなるリョーマの声に眩暈がした。
『俺って独占欲強いから』
何をとか、誰を、とか。
聞きたいことはたくさんあるし、リョーマはいつだって抽象的で、それなのに酷く直球だ。
それに困る私は、それなのにリョーマのそういう言葉が聞きたくて。
なんて矛盾屋、覚悟も決められない、腹もくくれない私は甘いものばかり欲しがるただの子供みたい。