ダリアの本音(3年春)

ダリアの本音(3年春)

お昼の購買は酷く混んでいる。
こんな夏場なんて特にそうだ。アイスも飲み物もすぐに棚から消える。
それに習って、私も飲料水に手を伸ばした途端。


「なまえ!おっはよ!」
「おはよ英二、もうお昼だけど」

後ろから覗き込むようにしてウィンクを一つ。
そういうのはあいさつでしょ?と眉を寄せる英二にきゅんとして。
彼氏がこんなに可愛くっていいのかと真剣に悩んでしまう。

「飲み物〜?」
「そう。英二は?」
「俺は………あ、それっ!」

指差した先は、私が手を伸ばしたもの、の、隣のグレープ味を銘打つペットボトル。
全く予期せぬ炭酸飲料に私は目を瞬かせた。

「炭酸?好きだったっけ?」
「今これおまけでストラップついてんじゃん!」
「ああ、これ今皆つけてるよね。可愛いって」
「なまえは?」
「え?」
「いかにもこういうの好きそう!なんていうか、可愛い系?」

ココアよりもカフェオレが好き。
コーヒーにミルクは入れてもお砂糖は入れない。
炭酸飲料は嫌いじゃないけれど、あえて選ぶほどでもない。
それでも私の唇からは平気で思ってもみない言葉が飛び出る。

「うん、可愛いよね」
「やっぱり〜?じゃ、これにしなよ!俺が一番いいやつ選んでやるからさ!」
「いいの?ありがと」

どれがいいかにゃ、なんて悩んでる姿も可愛くて、思わず笑顔になる。
英二といれるのなら、結局何だっていいと思えて。

「ほい、これ!」
「ありがと、じゃあこれにするね」

大石くんと打ち合わせがあるからと購買で英二と別れ、エアコンが効いている教室に戻ろうと。
選んでくれたキーホルダーを人差し指に引っかけながら歩く。



これは、可愛い、だろうか。
好みの問題と言ってしまえばそれだけだけれど。
英二という最大級のオプションがなくなったキーホルダーには何の価値もない。
英二なしなら「可愛い」なんて考えられない、私きっと相当まいってる。
このキーホルダーも、私なんかに持たれるよりいっそ、英二に持たれていたほうが幸せなんじゃないだろうか。


「ねえ、これ」


聞き覚えのある声に振り向くと、思ったより低い位置の頭。
見覚えがある顔に必死に記憶をたどる。
名前だけは聞いたことがあるはず。英二が騒いでいたっけ、と頭の片隅を掘り起こす。・・・おチビ、なんて呼んでしまったらさすがに怒るだろうか。


「ええと」
「これ」


左手が差し出してきたのは先程見つめた炭酸飲料。
これ、と再度差し出してくるジュースに、はっと気がついた。
私の右手にはストラップ、左手にはお財布。肝心のジュースの存在をすっかり忘れていた。


「忘れ物」
「え、あ、これ!」
「英二先輩が、アンタのだっていうから」
「あーごめんね、ありがとう」

別に、ついでっスから、と可愛くない態度に、脳内で英二が『おチビは生意気なんだよ〜』と再生した。
確かに愛想はないかもしれない。
じゃあ、と言いかけた矢先、「それって」とおチビくんが私の右手を指差した。

「あ、これ?……君も好きなの?」
「買ったら付いてきた」
「今流行ってるよね、可愛いって」
「へえ」
「あれ、そう思わない?」
「興味ないのはアンタじゃん」
「え?」

思ってもよらなかった切り返しに瞬きを数回。

「アンタには、こういうこどもっぽいの似合わないと思うけど」

それ、とまた右手のストラップを指差した。
私の視線も手元のそれに行く。

「英二先輩、見る目ないね」

唇の端を持ち上げる笑い方は、英二とは似ても似つかないのに。
思ってもよらなかった言葉に肩がはねた。

「リョーマ君!昼練はじまっちゃうよ」
間に急に入り込んできた姿にはっとした。
一年生だろうか。りょーまくん?


「また手塚部長に怒られるぜ〜グラウンド20周!ってな!」
「はやくはやく!」


ずるずると引きずられる背中は小さくて、先程の鋭い視線が嘘みたい。
ああそうか、えちぜんりょーま、越前リョーマ。

あとで英二に、少し彼の事を聞いてみようか。