1話

私の王子様は頼りなくて泣き虫でちっちゃい子犬にだって怖がってしまう1つ年下の普通の男の子。だけどすごく優しくて当時同じく怖がりだった私は子犬に同じく大泣きしているとき、泣きながらも私に背を向けて守ろうとした彼はその日から私の王子様となった。


だからこんなナイフを問答無用で投げてくる奴が王子様のわけがない。



『 いい加減にしてくれる?いま私はマーモンちゃんと恋バナ中なの! 』
「 誰も聞いてねぇよお前の初恋とか、シシシ、それに本物の王子ならここにいんじゃん 」
『 あんたなんて王子じゃないし、偽物ティアラつけた偽王子よ。私の王子様はツっくん一人なんだから! 』
「 カチーン、偽物とか言ってお前何様?お姫様でもないブスの癖に 」
『 王子様は女の子にブスなんて言わないわよ!! 』


「 喧嘩するなら僕の部屋から出てくれる? 」


いつものようにお金を数えているマーモンに幼き日に私を守ってくれたツっくんの話をするとそれを割って入ってきたのが何かとちょっかいをかけてくる自称王子のベル。投げてくるナイフを小太刀ではじき返していく。

幼い頃従弟だったツっくんは姉弟のように私たちは育った。本当の弟のように思っていたけどその身を挺して守ってくれる姿に私の初恋は奪われた。だけど仕事の関係でイタリアに引っ越しになり、両親が死んだ今も日本に帰れずにいる。しかも子犬に怖がっていた私が今では立派な殺し屋でマフィア界でもトップであるボンゴレ所属でまさかあの暗殺部隊ヴァリアーに所属しているなんて誰が思うだろうか。両親はその道の人でイタリアに渡ってすぐに他界。身寄りのない私はツっくんのところに戻る話も出たけど、ボスに出会ったことで私がイタリアにとどまることにして弱いままではボスに見向きもされない!と思った私はあらゆる人に稽古をつけてもらい、今では立派なヴァリアー幹部として人も殺している。初めて人を殺したときなんて自己嫌悪に襲われそうになったけどボスがそんなことで落ち込むのかと、、、



「 何さっきから喋ってんだよ、うぜー 」
「 その話は何十回も聞いてるけど 」
『 あれ?口にでてた? 』

幼い頃、、というあたりから私はどうやら無意識に口に出していたようだ。マーモンちゃんの言うようにこの話は幹部に何度も話している気がする。だって何回話しても不思議なのだ。そりゃ両親はマフィアだからこちらには足を突っ込んでたかもしれないけど私はボスに出会わなければ100%家光さんによって日本に帰されていた。もちろん初恋のツっくんのそばにいられると思った当時の私はそりゃ喜んだけど、それをおいてもボスの強さにかっこよさに惹かれてこんなところまで普通の女の子だった私がいるのだから不思議だ。


「 あらシロちゃん、こんなところにいたのね 」
『 あ、ルス姐、どうしたの?マーモンの部屋までくるなんて 』
「 本部からお呼び出しされてるってスクアーロが探してたわよ〜 」


本部からのお呼び出し。つまりそれは9代目からだろう。ここのメンバーはそこまで9代目に対して殺気だたないけど、今私を探しているというスクアーロはあの事件のこともあり殺気だって私を探しているだろう。だからルス姐がマーモンの部屋まできて私を探してくれたんだろう。


「 真白どっか行くのかよ、つまんねー 」
『 私は平和なときを過ごせるからいいけどね、まぁちょっと話するだけだし後で一緒にケーキ食べてあげる! 』


もちろんベルじゃなくマーモンとだけど!と最後に言葉を残し部屋を出たらナイフを投げられた。王子様はナイフなんて投げないからやっぱりあいつは偽物だ。














『 ーーーあ〜あ……、 』





9代目の話は任務だった。簡単な暗殺ならわざわざ呼び出したりはしないだろうから長期の任務かな?なんて呑気に思っていた私は9代目の言葉が信じられず、『 おじいちゃんそれ本気!? 』9代目を思わず昔の癖でおじいちゃん呼びしてしまった。それ程衝撃で、部屋に戻った私はしばらく放心状態。ベルが部屋にくるまで部屋の隅でぼーっとしていた。



「 お前どうしたんだよ、ケーキ食おう言ってたのに全然来ねぇから王子がわざわざ迎えにきてやったじゃん。 」

『 ……ケーキ食べよう言ったのマーモンにだもん、偽王子じゃないもん、、 』

「 なに、シシシ、泣いてやんの。」




ベルの言うように、泣いている。だってそんな残酷だ。私はボスに出会ってから10代目はボスだと信じて疑わなかった。クーデターを起こした時も私は共に戦った。だけど、ボスは深い眠りについてヴァリアーは監視され満足に任務もさせてもらえなかった。そんな時にやってきたのは9代目の命令。日本にいる沢田綱吉、そう私の王子様ツっくんを10代目候補として守護しろ。それはつまりボスを、ザンザスをボンゴレにする気はないということだ。初恋に会えるのは嬉しいはずなのにそっちのほうが衝撃で、でも断ればヴァリアーがどうなるかわからない。それぐらい私らの立場が弱いことぐらい私にだってわかる。





『 …っボスに会いたいよ、、 』
「 …どうしたんだよ 」
『 私、しばらくイタリアを離れるの、、しかも無期限だし、、っ私はボスがボスになって、 』
「 …寂しいんだ、ふーん。 」



ベルのすることはいつも突拍子がない。怒っても怒るだけ無駄。だから三角座りで顔をうずめていた私がベルの手で顔をあげられ、顔が近づき唇の感触がしたこの行為をした意味が理解できなかった。触れたと思ったら、離れて、また触れて、私が呆然としてることをいいことに舌を入れてきた。すさかず離そうにもベルの力は強くて、食われると思ったキスは初めてだ。いやキス自体初めてだけど。少ししてから、満足したのか離れていつものように、シシシと笑う。


「 ごちそうさま。あ、涙止まってんじゃん。 」
『 ……なんで、キス、、 』
「 なんか食べたくなって。 」



人のファーストキスを食べたくなって。という理由で奪ったそいつは悪びれもなくあっさりしていた。悲しみが怒りに変わりベルのその言葉に脱力する。そうだ、こいつに怒るだけ無駄だ。だけど、キス、しかも舌いれるやつをしてくるなんて、、いややっぱり怒りが湧いてきた。




『 っバカ!バカバカバカ!ベルのバカ! 』
「 うるせー、あ、顔赤い、真白もそーいうとこあるんだ、ふーん 」
『 私の、、ファーストキス、、そーいうのはそこらの女にしろ!!! 』
「 え、ファーストキスなんだ、その年で?だっせー。 」
『 まだ15だし!これからだし!偽王子の癖に! 』
「 誰が偽物だって?真白の癖に生意気。殺してぇー 」






さっきまでエロい雰囲気で、ディープなキスまでしたというのにそんな事なかったみたいにいつもの言い合い。だけどベルのおかげで決心がついた。殺し合いのこの世界でいつ死ぬかもわからないし幹部連中だって帰ってこなかったら死んだなって笑っちゃうような連中だけど、私にとってヴァリアーは家族だ。だからそれを守る為ならなんだってしよう。






だけどファーストキス奪ったのは許さないので出発直前に眠っているベルの前髪をあげた状態の写真を撮って起きた瞬間こっちからキスしたら大人しくなったことをいいことに逃げてそのまま出発した。


写真には丁度前髪をあげたタイミングで目を開けたベルの顔。綺麗な目。これをお守りにがんばろう。ただ断じてベルとは恋人じゃない、好きとかじゃないから。