神殿の前には手入れの行き届いた花壇があり、奇妙な石碑――シーカーストーンが並ぶ。子供の背丈くらいしかない小ぶりな石には、真ん中に大きく描かれた一つ目、そしてその瞳から流れる一粒の涙がある。それがシーカー族の印であることはハイラルに住む者であれば誰もが知っている。
その石を横目に、神殿を訪れる一人の少女の姿があった。
ふと気が付くと、その神殿へ足を運ぶ自分がいる。
神殿の床は一面大理石で覆われていて、絶えず磨かれているかのようにピカピカで、鏡の役割も果たしそうだ。そこには、少女の姿が映り込んでいた。
ふわふわとした柔らかそうなクリーム色の髪に、アメを溶かしたような金色の瞳。まだ幼い顔立ち。茶色のローブを羽織り、その下からは白いフリルと赤いリボンが顔を覗かせる。貴族の余所行きの格好だ。
少女は天井を仰いだ。少女はおろか、大人でも天井に手の届く人はいないだろう。そんな高い天井を見上げながら、ぽつりと呟く。
「また、ここに来ちゃった」
いつものように自問自答し、そして、いつものように溜め息を吐く。だって、ここに来た理由があるわけでもない。神殿の荘厳な造りには圧倒されるものがあったが……奥の扉は固く閉ざされ、何があるかも分からない、だからこそ神秘を感じるのだろうか。そんな神聖な場所、時の神殿。
どうしてここに来てしまうのか、自分でも良く分からず首を傾げるばかりだが、何度も何度も訪れるおかげで最早見慣れてしまった光景をただ眺めていた。
……眺めている、だけではない。何かを見守るように、じっと見つめている。
どうしてか、なんて知らない。答えてくれる人も、未だ誰もいない。
自分以外の存在を全く感じさせることのない、静かな神殿。いつもと同じように、一言も発することなく、黙って出ていくことになるのだろうと思っていた。……入り口に人影を見つけるまでは。
「……誰かいるの?」
思わず発した声は幼い。
少女、メリーカは意外な来訪者に目を丸くする。
神殿の入り口には、緑衣を纏い、妖精を連れた少年が立っていた。
少年少女達の出会いは、運命か、女神の思し召しか。
この瞬間、確かに運命の歯車は動き出したのだ――時を刻むと共に。
伝説は、再び動き出す。