Would you like a refill?

式は六月に挙げないで

※嘔吐描写注意






 拝啓、から始まった手紙はあの子らしくなくて思わずくすりと笑ってしまう。夢ノ咲学院を卒業してあの子と疎遠になってから、早くも十年が経った春のことだった。
 白地に淡いピンク色の花柄。シンプルながらも可愛らしい、趣味の良さは学生時代から全く変わっていない。
罫線からはみ出ないように書かれた小さな文字の列を目で追う。
体調を崩してはいないか、最近名前をよく聞くようになった、Knightsのみんなとは相変わらず仲良しか……尤も、心配はいらないと思うけど。
それから、内容は彼女の近況の話題に変わり、ある一文を目にする。一瞬、言いしれない気持ち悪さに襲われて手紙を離してしまう。空気に抵抗した便箋はパサリと軽い音を立てて床に落ちた。

『この夏、結婚します』

 拾い上げようと屈むが、伸ばした指先は便箋に触れただけだった。
 たった一文、一言、「結婚」という言葉が私を殴った。手紙と向き合おうと上げた顔を何度も何度も。頭がガンガン痛むし、意識はあるのに体が言うことを聞かない。視界が滲む。胃液が込みあがってくるのを必死に堪えると、嫌な汗が背筋を伝った。
 そうして、しばらくの間情けなく蹲っていた。額に浮かんだ脂汗が涙と一緒になって流れ落ちる。
 わかっていた。彼女は、自分とは結ばれてはくれないこと。けれど、ずっと夢を見てしまっていた。彼女がたった一度口にしてくれた言葉に。

「二人で綺麗なウェディングドレスを着よう。二人で、世界一幸せな花嫁になろう」

 お揃いの真っ白なウェディングドレスを着て、お互いに「一番綺麗」と言い合いたかった。ただ、それだけだったのに。

 落ち着いてきた頃、手紙の続きに目を通した。
 彼と出会えて楽しいこと、嬉しいこと、たまに少しむかつくことが高校時代に語ったみたいに素直に綴られていた。
 ああ、貴女は今、幸せなのね。
 なら、良かった。本当は私と幸せになってほしかったけれど、これでも大人になったんだから、失恋くらい受け止めるわ。
 どうか、お幸せに。
 彼女の手紙を読み、最後に差出人の名前を深く深く刻み付けようと目を落とす。

「あなたは、私のお姫様でした ひかりより」

 堪えきれなくなった感情を、可愛らしい便箋の上に全部吐き出した。