いつだって透明に



「なあ。本当にこっちでいいのか、地図みせてみろ。」
「大丈夫!今日のゆうかは、ちゃんと地図読めるから!」

そう言い返すと、焦ちゃんは信じられないと言わんばかりの心配そうな表情をしていたけど、そのまま彼の手を引いて目的の場所へと連れていく。

そう今日は、数ヶ月ぶりに合ったお休みの日。
他事務所とのチームアップや大規模な事件が多々あり、ここ数ヶ月の焦ちゃんは本当に忙しそうで、流石に疲労の色がうかがえた。
だから、そんな彼がやっと取れたお休みに少しでも元気になってくれたらと思い、焦ちゃんが前に行ってみたいと話していた、なかなか予約の取れない蕎麦屋さんを頑張って予約しておいたのだ。
そして自分の方向音痴をふまえて、場所も事前に下調べ済み。焦ちゃんを癒す会の準備はバッチリだった。

「じゃん!祐佳が今日行きたいのはここです!」
「…………この蕎麦屋、俺が前に話したとこだろ。」

お店に到着すると、まさか祐佳の目的地がここだとは思ってなかったのか、驚いている様子の焦ちゃんが可愛くて、その手を引いてお店に入る。
「この店予約ねえと入れねえぞ…」と言う焦ちゃんに「そこは任せて!」と言い、店員さんに名前を伝えると、予め伝えておいた他の席とは仕切りがあるような半個室の座席へと通された。
諸々の説明を受けて店員さんが下がったあと、一緒にメニューを眺める。

「決まったか?」
「あ、うん、天ざるにしようかな。焦ちゃんは?」
「ざる大盛り」

そして焦ちゃんがいつもの流れで注文しようとしてくれるものだから「待って、祐佳が注文する!」といつも甘えっぱなしの自分に改めて気付く。
今日は焦ちゃんを癒す会なんだから祐佳がいっぱい甘やかすんだ。
焦ちゃんは不思議そうな顔をしていたけれど、再び店員さんを呼び2人分の注文を済ませた。

「この店よく予約とれたな。」
「なんか偶然空いてたの。祐佳も行ってみたかったから予約しちゃった。」
「……そうなのか、態々ありがとな。」

こちらを真っ直ぐ見て、そうお礼を言う焦ちゃんの顔はとっても嬉しそうで。
数ヶ月ぶりに会えた今日にその表情を見れただけで、頑張って予約をして良かったなと充分に噛み締めることができた。







「それ重いだろ、持つから貸してくれ。」
「大丈夫!焦ちゃんのが持ってくれてるし、手繋いでたいから半分こしようね。」
そう言うと焦ちゃんは少し微笑んで、繋いでいる手をぎゅっとしてくれた。

今まで食べた蕎麦の中で1番なんじゃないかってくらい大満足な味だった蕎麦屋さんを出て、忙しくて買い物にも行けてなかった彼の日用品やら必要な物の買い出しに向かった。
焦ちゃんも疲れているからと思い、あまり外に長居はせず夜ご飯は彼のお家で作って食べようと思っていたので、その食材もあり中々の荷物になってしまったのだ。

「今日はこないだ冬美さんに教えてもらった竜田揚げつくるよ!」
「ああ、姉さんから連絡きてたな。祐佳に頼ってもらえるの、いつも嬉しそうにしてる。」

お世辞にも料理がうまいとは言えないけど、焦ちゃんのためにも上達したくて、料理上手な冬美さんをいつも頼ってしまい、内心迷惑ではないか心配だったから、彼からそう聞いてホッとする。

冬美さんはいつも祐佳のことを本当の妹のように接してくれて、「祐佳ちゃんが焦凍のお嫁さんになってくれたらなあ」と会う度に言ってくれるものだから、本当にそうなって冬美さんとも家族になれたら嬉しいなと、勝手に焦ちゃんとの結婚まで想像したことを思い出して、少し顔が熱くなる。

「祐佳どうした、顔赤いぞ?」
「な、なんでもないよ!早く焦ちゃんのお家いこ!」

この気持ちを焦ちゃんに触れられるのはまだ少し、くすぐったくて
誤魔化すように繋いでいる手を引いて、足取りを速めると焦ちゃんのマンションが見えてきた。






「おおー!全然散らかってない!」
「まあほとんど寝に帰ってくるだけだったしな。」

焦ちゃんの部屋に着くと、数週間前に部屋の片付けを兼ねて来た時と変わらない状態だったから驚く。前に来たときは、もう少し散らかった様子だったからだ。
でも彼の言葉にそもそも家にいないのだから散らからないのかと、プロヒーローという職業の多忙さを改めて実感した。

「明日もお家でゆっくりしようね。」
「ああ、そうだな。」

焦ちゃんが久しぶりに取れた2連休をどう一緒に過ごすか悩んでいたが、彼の忙しさが想像以上だったので、疲れをとる為にも明日は出掛けずにお家でゆっくり過ごそうと今決めた。

「ん????」

そんなことを考えながら買ってきた食材を冷蔵庫にしまっていると、冷蔵室にとある洋菓子店の箱が入っているのを見つける。私はそのお店の名前に見覚えがあった。

「どうした………ああ、それ昨日買ってきた。」

祐佳の声を聞いてどうしたのかと、他の購入品を片付け終わった焦ちゃんが見に来た。
彼は冷静にそう言うけど、祐佳は違くて。

「前にそこのプリン気になってただろ。だから買っておいた。」

「え!!!やっぱりそうだよね!!??でもこれ、全然予約とれないんだよ!?」

そう言うと焦ちゃんは「頑張った」と言うけど、ここの洋菓子店はプリンだけではなく他のケーキも人気で予約必須の戦争店なのに、冷蔵庫にはそのプリンもケーキも入っていた。
しかも気になってると言ったのもかなり前で、本当にチラッとスマホで見せただけなのに、そんな些細なことを覚えていてくれて、祐佳のために忙しい中買いに行ってくれたという事がすごく嬉しくて、自分の顔が綻ぶのを感じる。

「焦ちゃん覚えてくれたんだ………疲れてるのに祐佳のこと考えてくれてありがとう。」
「祐佳がそれだけ喜んでくれるなら、それで充分だ。」

そして焦ちゃんは「それに…」と言葉を続けると、ゆっくりと祐佳の手を引いて、出会った頃よりもっと逞しくなった腕でぎゅっと抱き締めてくれる。

「寂しかっただろ。いつも頑張ってくれてありがとな。」

そう言って祐佳の頭をぽんぽんと優しく撫でてくれる焦ちゃんに、ああやっぱり敵わないやと思った。
焦ちゃんがプローヒーローになってから何ヶ月も会えないことも多々あって、寂しくないと言ったら嘘になる。でも轟焦凍もショートも大切だから、彼がヒーローをしてる姿が大好きだから、例え寂しくてもそれを言葉にしたくなくて。

そんな祐佳の内側よりもっと奥にある気持ちさえも汲み取ってくれる彼は、どんな時でも祐佳のナンバーワンヒーローなんだ。

「今日も明日も、祐佳が焦ちゃんのこと甘やかそうと思ってたのに。」
「ああ、気付いてた。あの蕎麦屋も本当に行きたかったから嬉しかった。でも、俺にも格好つけさせてくれ。」

焦ちゃんのあったかくて大きな左手がそっと頬を包む。
きっと祐佳の全てを見透かしてしまう色の違う瞳が近付いてきて、あっという間に唇が重なる。
久しぶりに感じたその体温も存在も、愛しさも、全てを強く強く握りしめた。





おのさんからの逆行感想リプでもらったお題