木漏れ日

「あのね、」
「どうした」

「焦凍くんが私のこと好きになってくれたの、今でも夢みたいに思う時があるの」

隣に座る彼は、不思議そうな、何かあったのかと心配そうな顔を向けてくる。


焦凍くんが“プロヒーローショート“になってから早一年が経つ。
今日は久しぶりに合ったお休みの日。お家でのんびりしていると、以前に焦凍くんが世界規模の合同作戦に召集されていた時の映像がテレビで流れた。

「ニュースでショートの活躍が映った時、よく思うの。沢山の人に必要とされていて、みんなの心を照らしてくれて、こんなにかっこよくて凄い人が、私のことを好きになってくれて、一緒にいてくれて。幸せすぎて夢みたいって。」

この気持ちを言葉で表現することは、自分でも出来なかった。
だからきっと焦凍くんはもっと意味が分からないと思うし、彼のことになるとこういう名前をつけられないような、溢れて胸がぎゅっとするような気持ちに包まれるのは日常的だ。
でも、いつもならそれは心の中に飲み込むのに、どうしてか今日は溢れてしまった。

これ以上困らせてしまうのもと思い、話題を変えようと思ったけれど、そこで私の気持ちを置いてけぼりにしないのが焦凍くんだった。

「現場でもう限界だって時にいつも思い出すんだ。俺の憧れたヒーローの言葉と、俺の隣で幸せそうに笑う名前の顔。待っててくれるやつがいる、俺が守らなきゃいけない居場所がある、こんなところで負けてられねえと思う。ヒーローショートがどんな時でも踏ん張れるのは、名前がいるからだ。」

だから俺が名前を好きなことは夢なんかじゃねえぞ、と言う焦凍くんの表情も言葉もすごく温かくて柔らかくて、それは間違いなく私だけに向けられたもので。気付いたら涙がぽろぽろと溢れていた。

「え、おい、どうした、何か嫌なこと言っちまったか」
「違うよ、なんか焦凍くんのこと好きだなあって思ったら、ぎゅっとして溢れてきちゃった」

そう言うと焦凍くんはホッと息を吐く。そして親指の腹で私の涙を拭うと、いつものように優しく手を引いて、気持ちが落ち着くように抱きしめてくれた。
ゆっくり息をすると、胸いっぱいに彼の香りが広がる。やっぱりここが私の居場所で、守りたい人で、それは夢なんかじゃない。ちゃんとこの手のひらの中にある幸せだ。


「ねえ焦凍くん、大好きだよ」
「ああ、俺もだ」


Sugary .