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「片桐、もう昼食った?」
 食ってないならランチ行こうぜ、と萩原はデスクにもたれている片桐に声をかける。
「行く!!」
 二つ返事を貰い、二人がやって来たのはイタリアンレストランだ。
「てか連れて来といてアレなんだけど、松田は良かったのか?」
「何でここで松田クンが出てくるんだい」
「あー、まあ、うん、そうだな。何でだろうな」
 訊く俺も馬鹿だな、と萩原は苦笑してパスタを巻く。
「大体松田クンは仕事仕事うるさいんだよ。仕事人間になったら碌なことないよ」
「あいつアレで意外と真面目だからなぁ」
 見た目や言動でとても警察官には見えないが、芯はちゃんとしている。その点では片桐も松田によく似ているが。
「あのさあ」
 前々から訊きたかったことをついに声に出す。
「片桐って…松田のこと、どう思ってるの?」
 少しの不安と、野次馬根性が萩原の中で同席する。つまり好奇心に満ちた目を片桐に向けてしまったのである。「えー?」と小首をかしげて笑った片桐は、ペペロンチーノをぱくりと食べた。
「うるさい奴だね」
「うわぁ…」
 松田が聞いたらこっそりへこみそうだ。あれで人並みに傷ついたりするのだ。やはり今日ここに彼がいなくて良かった。萩原は自分の行いを自画自賛した。「それに、あいつは銃口から私を庇った。まったく馬鹿な奴だ」次いで溜息混じりに出た彼女の発言にびっくりする。
「片桐、怒ってる?」
「呆れているのさ」
 そう答えて、片桐は最後の一本であるペペロンチーノを頬張った。皿は空っぽだ。米粒一つさえ残さないタイプなのだろう。彼女は変なところで几帳面だ。
「それにあれはトランプ銃だった。撃たれたって死ぬわけじゃない。そもそも怪盗キッドが人を殺さないことは分かっていたし、あいつに守られる必要なんてなかった」
 今日はいやに頑なだ。それも、悪いほうに。
「そんなにあいつに守られたのが気に食わなかった?」
 そう訊ねてみれば、片桐は笑みを固くした。
 意外である。まさか彼女がそんなことを気にする質だなんて誰が想像するものか。萩原は思わず異物を見るような目を向けてしまった。
 やがて、片桐が口を開く。
「気にするとか気にしないとか、そういう問題じゃあないんだよ」
 僅かな、沈黙。息を呑む片桐。
「――そんなこと、あってはならないんだ」
 吐き出された言葉は、妙に萩原の鼓膜を震わせた。