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「じゃあさ、守られた時、松田をどう思った?女として」
 イタリアンレストランを出てから萩原は懲りずにそんな質問を投げかけた。彼女はいつも通りの笑みを湛えていたものの、少しだけうんざりした様子だった。
「萩原クン、キミはそんなに恋バナが好きな性格だったかね」
「同期の恋愛は気にするぜ」
「ああ、そういえばキミたちはそうだったね」
 やれやれと肩を竦め、片桐は「そうだねえ」と思案顔をした。
「馬鹿正直な男だと思ったよ」
「さっきから酷くね!?もうちょっと『松田クンかっこよかった〜!逞しかった〜!』とかないの?!」
「キミ、それ私が言ったらどう思う?」
「………気持ち悪いと思う」
 「キミも大概酷い奴だ」と呟いて片桐はからからと笑った。その通りだと思う。
 そこから警視庁まで、二人は他愛ない話をしながら歩いた。ゆっくりした歩幅だった。確か、いつもの彼女ならもう少し早く歩いていた気がしたが、今日はそうではなかった。先程の会話が片桐なりに響いたのだろうか。気になったが、萩原は知らない振りをして歩幅を彼女に合わせた。
 警視庁に着くと、片桐はいつもと変わらない様子でこちらの顔を覗き込んできた。そういう何気ない仕草がちょっと可愛かったりする。松田には絶対言えないが。
「今日はありがとう、ご馳走してもらって済まなかったね」
「いいえ〜。女性に払わせるわけにはいかないから」
「紳士だねェ」
「紳士ついでに…片桐」
 それは、ちょっとした悪戯心だった。
「俺なら、松田よりももっと直接的に君が欲しい言葉をあげられると思うけど」
 そう告げてみせれば、片桐は珍しく呆気に取られた表情をした。
 無音。
「……………なーんてな!!」
 明るく声を張り上げてみれば、片桐は少し狼狽えてからムッと眉根を寄せた。
「そういう冗談は感心しないぞ」
「ごめんごめん!」
 すぐさま謝れば片桐はいつも通りの笑みをくれた。
「…今度は松田も誘って遊びに行こうな」
「そういえばキミたちと遊んだことないねえ。あ、だったら私が作ったゲームでもしてみる?」
「えっ片桐ってゲーム作れるの!?」
 新たな発見である。「まあね。私の作るゲームは難しいよ?…最近やってる謎解きはね、規制を緩くして簡単にしているんだ」悪戯っ子の笑みを浮かべる片桐。
「すごいなぁ。じゃあ、三人の休みが合えば遊ぼうよ」
「そうだね、いつか…やってみたいものだよ」
 跳ねるような声音で、彼女は言った。