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 翌日、“安室透”をこなし、“バーボン”となった彼はベルモットと会った。本題を済ませてから、車の中で彼はそれとなく例の件について訊ねた。
「サイバー攻撃?」
「ええ。僕はそういう命令されたことがないんですが、そういうのって誰が担当しているのかなと気になって」
「それ聞いてどうするのよ」
「今後の為にも、是非担当者にご指南いただこうと思いまして」
 今でも充分ハッキングなどこなせる。これは被疑者に近づく為の単なる嘘である。
 ベルモットは興味なげにちらとこちらを見た。
「教えてあげない」
 それは予想外の返答だった。
「え〜…良いじゃないですか、情報収集の為の手は一つでも多いほうが良いでしょう?」
「駄目よ。悪いけど、基本的に幹部でアレに会えるのは私やジン、ウォッカだけって決められてるの」
「決められてる…?一体誰に」
「それも教えない」
 頑なである。まさかここまで防御壁が高いとは思わなかった。しかし裏を返せば、多くの人に会わせては都合が悪くなるということだ。(ということは…)世間的に顔が割れている人物の可能性がある。
「気になりますね」
「気になっても貴方に知る術はなくてよ」
 ああでも、とベルモットは窓の外を眺める。「一人、いたわね。アレと暫く任務を共にした人間が」幹部になりたてだったくせに会うことが許された、と続ける彼女。そこには純粋な驚きが含まれていた。
「へえ、誰なんですか、それ」
 その人物に訊けば少しはヒントを得られるかもしれない。期待を込めて訊ねれば、ベルモットは無表情でこちらを見て言った。

「スコッチよ」