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「お前何やってんだ」
 松田は窓際で奇妙なことをしている片桐を発見した。
 松田が怪訝そうにするのも無理はない。「やあ松田クン、おはよう」と述べる彼女の眼前には、爪楊枝で立て掛けている笊と鳥の餌があったからだ。餌は笊の中にあり、爪楊枝と餌は細い糸で繋がっている。
「見て分からないかい?鳥を捕まえようとしているのだよ」
 至極当然のことのように言っているが、そもそも一般人は鳥を捕まえようだなんて考えない。
「…飼いたいのか?ならペットショップ行けばいいだろ」
「私ペットショップ嫌いなんだよ」
「何で」
「あれだよホラ、命を金銭で売買するようなことしたくないんだよ」
「お前がそんな殊勝な心の持ち主だとは思わなかったぜ」
 今は休憩時間だ。片桐の行動を特に咎める必要もないため、彼女の隣に座って笊に目を向ける。「罠に引っ掛かったことはあんのか?」「たまにね」案外捕まるものなのか。意外である。
「捕まえたあとどうすんだ?」
「焼き鳥にする」
「は!?」
「あっはっは!冗談だよ!」
 片桐なら本気でやりそうだから怖い。
「それにしてもかからないねえ。定時後、もう一度来ようっと」
「いや何時間後になるんだよ!お前それでもし本当に鳥が引っ掛かったら可哀想だろ…」
「その程度じゃ死にはしないさ。それに、捕食者がいたら罠に近づいてこないだろう」
「……………なあ、捕まえたあと、ほんとどうすんだ?」
「ちょっと。まさか私が本当に焼き鳥にするとでも思っているのかい?大丈夫、ちゃんと帰してあげるよ。あ、欲しかったらあげようか?」
「いや要らねえよ」
 ほら行った行った、と片桐は松田の背を押す。定時後、試しにもう一度確認しに来れば本当に鳥が罠に掛かっていてひどく驚いた。松田のそんな姿を見て、片桐は得意げに笑った。