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 立てこもり事件が発生した。場所は米花町のコンビニ。犯人の男はナイフを所持し、少年を人質にしているらしい。
「他に人質はいないのか?」
「それが……」
 現場に駆けつけた松田は、現場を偶然目撃した警察官の次の言葉に思わず天を仰いだ。
「ディアストーカーをかぶった女性が、いたような気がします…」


 同刻、コンビニ内。江戸川コナンは厄介なことにコンビニ強盗の人質に取られてしまった。抱えあげられていては腕時計麻酔銃はおろかキック力増強シューズも使えない。(どうすっかな…)何か使えそうなものはないかと周囲を探る――と、どこか見覚えのある帽子が視界を掠めた。
(え゛!?)
 記憶が正しければ、あれは片桐夕がよく着用していたディアストーカーだ。
「ちっ…おい!金はまだか!!」
「……っ、つ(な、何で夕さんが…)」
 犯人が身じろぎした所為で、首に当てられていたナイフの鋒が食い込む。痛いが我儘は言っていられない。
 犯人である男はどうやら本当にただの強盗らしく、金さえ手に入れば満足らしい。単純だが厄介だ。先程から見るにどうやら男は短気のようだし、刺激させたら何をするか分からない。
「ぅ、うえぇ…」
 するとどこからか、子供の嗚咽が聞こえてきた。初めは耳を澄ませば音を拾える程度だったが、段々と大きくなっていく。男の耳にもそれは届いてしまったらしく、不愉快そうに舌打ちを一つした。「うるせえ!」男が怒鳴れば、子供の泣き声は更に響いた。
 いつまでも泣き止まない子供に嫌気が差し、男はコナンを抱きかかえたまま子供の傍まで寄る。すかさず母親が間に割って入った。
「す、すみません…すぐに泣き止ませますんで…」
「だったらさっさとしろよ!使えねえな!!」
 苛立ちのままに男が母親を蹴った。「まま!!」子供が驚き、母親に抱き着く。しかしそれを構うことなく、男は尚も子供ごと母親を蹴りつけた。
 すると。
「まあ落ち着きたまえよ」
 いつもと変わらない口調で、“彼女”は言った。