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 スコッチという男は、公安の手先として組織に潜入してきた男だった。闇がひどく似合わない男であったと、ベルモットは記憶している。
(スコッチ、か)
 バーボンが先日探りを入れてきた、サイバー攻撃を得意とする存在。スコッチは暫くの間、その存在と行動を共にしていたのだ。かつ、彼はその存在に日本のことを教える役割も与えられていた。
「で、何か分かったのかしら?」
 挑戦的に問うてみれば、バーボンはいつも通りの笑みを浮かべて「残念ながらまだ」と答えた。
「ていうか、何で急に訊いてきたわけ?」
「言ったじゃないですか。指南していただきたいと」
「それだけとは思えないんだけど?」
「まあ、スコッチと仲良くしていた、という点が気になっているというのもあります。あの人僕にそんな人と接触していたことを一言も言わなかったので」
「口止めされてたのよ」
 アレは存在が露見しては価値がなくなるものだ。だから必要最低限の人間のみとの接触しか許さなかったのである。
「その人ってどんな人なんですか?」
 答える義務はなかった。しかしベルモットは、何故かその時答える気になってしまった。
「ガキね」
「は?」
 バーボンがきょとんとする。
「我儘で私の言うことなんか全然聞かなくて、その癖頭が良いもんだから屁理屈ばっかり捏ねる。本当、手のかかるガキだわ」
 しかもオバサン呼ばわりするのである。腹立たしいことこの上ない。「長い付き合いの私でさえそれなのに、スコッチはどうしてかすぐに仲良くなれたのよね。不思議だわ」スコッチに対するアレの懐き加減といえば、耽溺といえるほどであった。彼自身も満更ではないようであったし、そういう態度もアレを加速させる要因だったのだろう。
「…スコッチは楽天的でしたからね」
「そういう明るさに子供は惹かれるものなのかしらね」
 ベルモットの疑問にバーボンは答えなかった。