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 どこかの街の、どこかの道を辿り、どこかの海に行き着いた場所。どこかの空の下で、彼女は青翠の海を見ていた。チャームポイントであったディアストーカーは頭の上になく、インバネスケープも羽織っていない。どこにでもある黒のコートを着込み、帽子はかぶっていなかった。
 潮風が頬を撫ぜ、黒髪を浚う。
「気持ちいい風だなぁ」
 晴れた昼時の海風は心地良い。いつまでもここにいたい気分になる。
 だが。
「探したぜ」
 現実はそう上手くいかない。
「裏切りには相応の制裁を、だっけ?」
 振り向くことなく述べる。彼はそうだなと同意した。そういえば銀髪の彼は自分のことをあまり好ましく思っていなかったし、進んで終幕を引きたがったのかもしれない。
 (あ、遊ぶ約束してたの忘れてた)自作のゲームを紹介する約束もしていた。しくじったなぁと、ちょっとだけ後悔する。
 彼女は黒いサングラスをかけてから消波ブロックに登り、くるりと振り返った。彼は目深く帽子をかぶり、長い銀髪を揺らしていた。
「お前、何で笑ってるんだ」
 彼は問う。
「そう生きるって、決めてるからさ」
 彼女は答えた。そうか、と彼は納得してから銃口を向けた。「言い残しておきたいことはあるか?」気のない声だった。
「彼に、言っておきたかったな」
 殆ど独り言に近い声量だった。
「“きみのこと、結構好きだったよ”」

 ぱぁんっ。