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 安室は僅かな会話の中からヒントを見出していた。
 スコッチに妙に懐いたとされる存在、ガキっぽい態度、そしてベルモットが口にした“子供”という単語。対象の正体は年齢が低い、あるいは精神的に幼いのか。
(そういえば…)
 昔、スコッチが言葉を漏らしていた。

『なあ降谷、俺ってオッサンかなあ』
『はあ?何言ってんだお前』
『ひげ剃ったほうが良いって言われてさ〜おじさんじゃなくてお兄さんだよ!って注意しても、ひげ生えているしおじさんだよって言われたんだよ』

 おじさんじゃなくてお兄さん。そういうことを言うのは歳下に対してだけだ。(まさか、正体は本当に幼い子供なのか?)そんなわけないと、心のどこかで否定する。この組織で子供は足手纏いだ。そんな者をわざわざ雇うわけがない。
「その方って若い方なんですか?」
 安室は問う。「え?」ベルモットは突然の質問に少し狼狽えたようであった。
「まあ、そうね…というか、あの子の年齢なんてかなりいい加減なものよ」
「はい?」
「誰も知らないもの。あの子の本当の歳。というか、あの子自身も知らないんじゃないかしら」
 履歴書を書く時なんかも、適当にしているみたいよ。と述べるベルモット。
「ベルモットって…」
 不意に気づく。安室はまさかと思いつつも、口に出してみた。
「その人のこと、結構好きなんですか?」
「…ハァ?」
 途端、彼女の形の良い眉がくっと寄る。不愉快だと物語っている。まさかここまで否定されるとは思わず、安室は慌てて「すみません」と苦笑した。「貴女にしては妙に面倒見が良いというか…よく知ってるなあと思いまして」取り繕ってみても彼女の機嫌が回復する素振りはなかった。
「別に好きとか嫌いとかそういうのじゃないのよ」
 ベルモットはふんと鼻を鳴らした。
「ただあの子は…私のSis(妹分)なだけよ」