▼ ▲ ▼

 先日、またもや怪盗キッドに関する騒動が起きた。松田は現場に行っていないが、片桐は居合わせたらしい。あの気障な泥棒と彼女を会わせてしまったのは何となく嫌な気分だが、コナン曰く彼女も宝石も無事だったらしいので松田は片桐にその事件のことを訊いたことがなかった。
「流石はキッドキラーだな」
「あ、あははは」
 そんなことないよ、と謙遜するコナンに苦笑し、カップに口をつける。「そうですよねぇ!コナン君、将来は警察官になったらどうだい?」安室が笑いながらそうスカウトしてみれば「ボクは探偵になるから駄目だよ!」と彼ははっきり拒否した。
「それにしても松田刑事、あなたいつまでポアロにいるつもりですか?片桐さんのこと言えませんよ」
「うるせーな」
「同棲してたらやっぱ似てくるんじゃない?」
「萩原ッ!余計なこと言うんじゃねえ!!」
「えっ松田刑事って夕さんと同棲してるの!?ていうか付き合ってるの!?!?」
「ほれ見ろこうなった!!」
 野次馬根性丸出しのコナンが詰め寄ってくる。「ねえねえ教えてよ松田刑事!ボク大人の恋愛気になるなー!」この場に女子高生組がいないことは不幸中の幸いだが、それでもコナンの追撃は来る。子供の無邪気さを利用したその質問攻めを躱すのは大変だ。
「すいませーん」
 攻防の最中、ふと低い声をかけられた。
「ちょっとそこの。癖毛の人」
「あ!?」
「うわこわっ!!」
 若い男だった。おそらく自分たちよりも歳下だろう。見覚えがない。多分相手もそうなのだろう「えーと」と余所余所しくしながら白い封筒を渡してきた。
「何だ?」
「知らないッスよ。さっき店の外にいた男にアンタに渡してくれって言われて…」
「男?」
「どっかで見たことあったけど…まあ良いや。渡しましたからね!」
 そう言うなり彼はさっさと出ていってしまった。そんな背中を怖い顔をしたコナンが凝視していたが「それ開けてみようよ」と封筒に視線を移した。松田も気になっていたのですぐに開けてみることにした。中には一枚のカードが入っていた。

【本日正午、片桐夕様を戴きに参上致します。 怪盗キッド】

「!?」
「松田刑事!これって…!!」
「え、何、松田見せて」
 カードを萩原に奪われて安室も目を通せば、二人ともすぐさま顔つきが変わった。
「梓さん!済みませんが上がらせていただきます!今日のバイト代は結構です!」
「今日はあいつ非番だから一人で家にいる筈だ!」
「松田!車は安室くんに回してもらえ!片桐に電話!」
「分かってる!」
「ボクも行くよ!」
 全員安室の車に乗り込む。すごいスピードで車は発進した。その間に松田は片桐にコールする。
<やあ、どうしたの?>
 片桐はすぐに電話に出た。
「夕!お前いま家にいるな!?」
<そうだけど?>
「ベランダの鍵締めてるよな?いいか、絶対に近づくなよ!」
<ちょっと、急に何?ベランダなんて…>
 そこで不意に彼女の声が途絶える。電話は切れてはいない。
「…夕?どうした」
<わお>
 ひゅおお、という風の音と彼女の感嘆に満ちた声。嫌な予感が、する。
「くそっ…!」
「安室さん、急いで!」
「ああ!」