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 片桐夕は自身の現状に少々困惑していた。体はロープで柱に拘束されており、目の前には三人の男たち。全員銃を所持している。種類はコルト・ガバメント。一般的な銃にもかかわらずなんだか持ち方がたどたどしい。素人だろう。(あれ…)どうして、そんなことを知っているのか。(警察官だから?)いや、そもそも最初からおかしい。何故己は警察官を目指していたのだろう。
「なあ、あの女どうする?」
「おれ結構好みだなぁ…ちょっと楽しみてえよ」
「程々にしとけよ」
 にやにやと口元を緩めながら近づいてくる一人の男。他の二人はそれを眺めるだけだ。告げられずとも、男がこの先何をしようとしているのか分かった。
 ロープを雑に外され、襟元を掴まれる。大人しくしとけよ?と耳元で囁かれ、鳥肌が立った。気持ちが悪い。視界の端で拳銃をチラつかせているこの男は、それさえあれば片桐を黙らせられると踏んでいるらしい。舐められたものだ。
「てめーらも来るか?」
「お前と穴兄弟なんてごめんだよ!」
「ぎゃはは!違いねえ!」
「ほーれ、大丈夫、気持ち良くしてやるから」
 ――“貴女に一番馴染みがある行為は何ですか?”
「このワンピース可愛いな」

『お前にやる。欲しがってたろ』

「でもまぁ、破くか」
 ――“引き金を引くことかな”

「不愉快だな」
「は?」
 どすり。鈍い音を響かせ、男が倒れる。片桐の膝が男の鳩尾に入ったからだ。まさか反撃されるとは思いもせず、二人の男たちも、暫し呆けていた。
「てっ…てめぇ!」
 一人が慌てて銃を構えたが、片桐は狼狽えなかった。
「キミたち、銃に関しては素人だろ?」
「な、」
「コルトガバメントは半自動拳銃の中では確かにオーソドックスなものだが、有効射程距離の十メートル内でも意外と命中率が低い。訓練を受けてない者ではこの距離でも私を狙撃することはできないだろう」
 つらつらと知識を述べ、男たちと距離を縮める。彼らは片桐の圧に負けてじりじりと後退していく。「まあ私なら」それがなんだか、面白かった。
「キミたちを殺せる」
 片桐は引き金を引いた。
 あまりにも呆気なかった。急所は外し、弾丸は太ももに命中した。わざと外したのだ。だがそれでも大きな衝撃になったのだろう、二人は気絶した。
 沈黙が続く中、片桐は大きな溜息をつく。
「嗚呼」
 今、心を支配するのは誘拐犯から解放された安堵ではなく、落胆であった。結局こうなってしまったと、片桐夕は己に失望したのだ。自分は自分のままでしかいられなかったのだと、嫌でも自覚してしまったのだ。