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 かなり酒は回っていると思う。自分だけでなく同期二人も含めて。片桐には遅くなると告げていたし時間は問題なかったが、果たして二人が自力で帰られるのか、そこだけが一抹の不安であった。
「でもよー、俺、まさかお前と片桐さんが付き合うとは思ってなかったぜ」
 深い事情を知らない伊達が笑いながら言った。
「ああ……まあ、そうだろうな」
「俺は予想してたけどね!」
「黙れ萩原。お前、ちょっと前にあいつを口説いたらしいじゃねえか。その話聞かせろ」
「ええっ!?ほんの冗談だって!」
「なにぃ!?萩原、お前も片桐さん狙ってたのか!?」
「だーから違うって!あの子はどっちかって言うと悪友だから!」
 案外的を射た発言だ。確かに片桐は“良い”友達ではない。「でもさー」萩原はビールをぐいっと飲み干すと、からから笑いながらこんな言葉を口にした。
「松田って結構片桐に振り回されっぱなしじゃん?付き合ってみてどうなの?お前尻に敷かれてるわけ?」
 ニヤニヤ笑いながら訊ねてくる彼はそれはもうウザい。伊達も悪ノリして同じ顔をするのだから、松田は煩わしげに溜息をついた。
「別に普通」
「普通ってことは尻に敷かれてるってことか?俺片桐さんとはあんまり面識ねえから分かんねえよ」
「えっ、伊達は片桐と親しくないの?」
「こいつがいつも傍にいるから近づけねえの」
 こいつ、と言ってこちらを指差してくるあたりが腹立つ。
 ぐらりと揺れる脳みそで考える。実際のところどうだろう。まあ、相変わらず振り回されていることに変わりはないし、彼女から目が離せないし、なんだかんだでお願いは聞いてしまう。――が、それを全て打ち明けてしまうのは癪だった。「……まあ」だから、こう続ける。

「ベッドじゃ立場は逆転してるけどな」

 しんっ、とその場が静まり返った。
「………うわー、俺友達の夜の営み想像しちまった吐きそう」
「トイレ行ってこい」
 オロロロロと吐く仕草をする萩原の脛を蹴り上げれば、彼はたちまち静かになった。
「仲が良さそうでなによりだ」
 そんな彼を一瞥し、呟く伊達。その表情があまりにも穏やかだったので松田はなんとなく気恥ずかしくなり、誤魔化すように新しい煙草に火を点けた。