▼ ▲ ▼

「付き合うことになった」
「…………ん?」
 一体何の話だと、萩原は思った。
「えっ何が?」
「何がって何だ」
「えっ待って待って何の話?えっ付き合うって男女のアレ?えっ……えっ!?」
「え、が多い」
「……………」
「……………」
「……………」
「…今度は何だよ」
 ふてぶてしく煙草の煙を吐く松田。
「いやいや…ちょっと待てよ。付き合うって誰と?まさか、片桐?」
「それ以外に誰がいるんだよ」
「何で当然のように言ってんの!?」
 至極当たり前だと言われても困る。こちらは二人の内情などまったく知らないのだから。
「は?片桐ってお前のこと好きだったの?そもそもお前ってマジで片桐に惚れてたの?」
「一々うるさい奴だな」
「いやいやだって気になるじゃん!?」
「こっちにも色々事情があんだよ」
 怪しすぎる。まあ、二人とも色恋沙汰に関してはあまりふざけるタイプではないからそういう意味での心配は不要だと思うものの、二人を見守ってきた萩原としては幾分か納得できない部分があった。だって、あまりにも突然すぎるではないか。
「……まぁ、お前らが納得してるなら…口挟むことじゃないと思うけどさ」
「お前は俺らの母親か」
「おかあちゃんですよ!」
「開き直んな」
 ともあれ、松田が普通に笑っているから良しとする。何か大きなことを隠されているのは分かっていた。しかし、今でなくてもいつか付き合うにあたっての経緯を聞けるのなら充分だ。無理に聞き出す必要はない。
 二人が幸せそうなら、それで良かった。
「今度お前をネタに片桐からかって良いかな」
「…どんな目に遭っても良いなら好きにすればいいと思うぜ」
「え何それ怖い」
 ――ああ、俺も彼女欲しい。