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 杯戸中央病院で殺人事件があったらしい。片桐が高木、目暮と一緒にそこへ向かった。まだ書類整理の途中だったが、正式な出動要請なら致し方ない。松田は新しい煙草に火を点けて何気なく窓の外を見た。
 杯戸中央病院に思い入れなどないが、米花中央病院にならある。それも、松田が片桐が初めて会話する要因となった………もっといえば片桐に命を救われたきっかけとなった病院だ。
「よ」
 今はもう改装されたであろう米花中央病院を思い浮かべた時、萩原が疲れた顔をしてやって来た。書類整理に飽きたようだ。
 思えば、この男も片桐に命を救われたのだ。
「なに神妙な顔してるわけ?」
「別に…………ちょっと、三年前のことを思い出してただけだ」
 すると萩原は顔色を変えた。
 松田は三年前に、萩原は七年前に死ぬ運命にあった。松田が片桐の名を初めて聞いたのは七年前のこと。萩原が手こずった爆弾の解体を手助けした警察官――それが片桐だった。当初、あれは萩原が阻止に成功したかに思われたが、六秒を表示していたディスプレイが突如再起動したのだ。いきなりのことに誰もが爆弾をどうしようもできないと思った。が、どういうわけなのかそこに片桐が颯爽と現れたのだ。彼女は爆弾が遠隔操作されているのが分かっていたかのように受信装置を破壊し、爆弾を見事止めてみせた。
 当時はまだ大人しかったとされているが、松田がその名を耳にしてからというもの段々彼女のことをよく聞くようになり、当時から傍若無人ぶりは頭角を現していた。
「いやぁ、あの時は本当に助かったよ」
 からからと呑気に笑う萩原だが、あの出来事があってから彼は片桐を深く慕うようになった。
「お前のことも助けてくれたし、片桐は本当にすごいやつだよなぁ」
 そうなのである。萩原の件から四年後、つまり今から換算すると三年前に松田は絶体絶命の危機を迎えた。というのも萩原が解体した爆弾の犯人が再び姿を現したのだ。警視庁に送られてきた暗号を松田はいち早く解読し、ショッピングモールにある観覧車のゴンドラに乗り込んだ。
 しかし、そこには既にトラップが仕掛けられていた。
「あの時は『あ、松田だめかも』って思ったよ、俺」
「ひでえな」
「いや普通思うだろ?実は爆弾はもう一つ仕掛けられてあって、そこに辿り着くヒントが爆発三秒前にディスプレイに表示されるなんて」
 自分を選ぶか、それとも民衆を選ぶか。究極の選択だった。勿論松田は警察官だ。己を捨てる覚悟などとうの昔にしていた。
 だが。

『おや、随分大変なことになっているねえ』

 自分しか乗っていないと思っていたゴンドラに、何故か片桐がいた。