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「ねえ、キミの卒業アルバム見せてよ」
 唐突な要求であった。松田は口をつけようと持ち上げたマグカップをテーブルに置く。
「なんだよ急に」
「良いじゃないか。ゼロの日常のアニメ化や劇場版まで始まってるんだし、ちょっとくらい見せてくれても」
「いやゼロの日常って何だよ」
「細かいことは気にしちゃ駄目だよ」
 意図がよく分からないが、とにかく彼女は己の卒業アルバムを見たいらしい。
 松田は片桐を見つめたままコーヒーを一口飲む。
「別に良いけど…アルバムなんか実家に置いてきちまったからこの家にはねえぞ」
「ええっ」
 割と本気の驚き具合だ。「そうなの。残念だなぁ」ちぇ、と唇を尖らせて、片桐はキッチンへ向かう。コーヒーを淹れにいったらしい。背中から悲しげな空気が漂っていた。
「そんなに見たかったのか?」
 意外そうに言えば、まあねと返事が。
「でもまあ良いよ、どうしても見たかったわけじゃないから」
 ――もしかして夕のやつ、一冊もアルバム持ってねえのか?
 彼女の境遇を考えれば可能性はゼロではなかった。
「夕」
「ん?…っ」
 予告もなく唇を添えれば、彼女の肩がぴくりと跳ねた。「は?な、なに」動揺した時の夕は少し口が悪くなる。
「んー、別に」
「意味分からん」
 そのまま肩を抱いてつむじ部分に額を押しつければ、ウザいと返答が来た。酷いものである。
「たまにはいいだろ」
「………」
「なあ夕」
 どん、と胸に彼女の頭がぶつかる。肯定の意である。
「いつか全部終わったら一緒に写真撮ろうぜ」
「……、」
「お前の記念すべきアルバム一冊目の一ページ目は俺とのツーショットな」
「……キミがどうしてもって言うなら」
「素直じゃねえなぁ」
「うるさい」