ご主人の密会が多くなった。それに比例し、最近ご主人の帰りが遅くなった。それも昼間出て行き、深夜に帰る様だ。流石に昼間付いて行けば餓鬼共に怪訝に思われるため、吾輩は昼間は家に居ることにしている。平日は塾、休日は密会と、ご主人の体の負荷が大きくなっているのは言うまでもない。
「先生は一体どちらへ行っているのだろう」
 小太郎は吾輩の背を撫でながら、独り言を呟く。「名前、おぬしは何か知らぬか?」ふん、貴様らよりもたくさん知っとるわ。まあ言うつもりなど毛頭無いがな。
「…よし、猫じゃらしを取ってきてやろう」
「に、」
「待っていろ!」
 馬鹿め。吾輩はそんな子供じみた物など興味無い。
 ドタドタと慌ただしい音を作って、小太郎は戻ってきた。手にはしっかりと猫じゃらしを掴んでいる。だから我輩はそんな物に興味など無いと言っているではないか。
「ほら名前!」
 そんなキラキラした目で見るな。まったく…そんな物で自らの不安を隠そうとする貴様も阿呆だが、餓鬼にこんな思いをさせるご主人も大概阿呆だ。仕方あるまい。今日はその下らん玩具に付き合ってやろう。吾輩もちょうど暇をしていたからな。
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