眠い。その一言に尽きる。
 友人に送ってもらった翌朝、名前は異常な眠気を保ちながら目覚めた。眠くて目蓋が重い。このままだと二度寝してしまいそうだが、仕事があるためなんとか根性を見せて着替えに取り掛かる。
「ほんと、なに、このねむけ」
 この体調不良はおかしい。そういえば以前テレビでとにかく眠くなる病気があると言っていた気がする。まさか自分もその奇病にかかってしまったとでもいうのか。自分がところ構わず眠ってしまう想像をしてしまい、ぶるりと身が震える。
 ――こういう時に頼りになる彼氏でもいたらなぁ。
 生憎彼氏なしの一人暮らしである名前に、何かあったらすぐに駆けつけてくれるようなかっこいいパートナーはいない。もし本当に病気だった場合、生活は一体どうなるのか。ぼんやりする思考でおそろしい想像をしてしまう。
「あーっ!違う違う!起きろ私!いない彼氏のこと想像するな!!」
 ――こんなにぼんやりしていたらお隣さんみたいに刺されちゃう。
 ぶんぶんと頭を振ってから朝食の準備に取り掛かろうとして、名前はあるものに気がついた。
 机上に裏返しにされた写真がある。
 一瞬驚いたが、昨日鞄から出てきた写真かと気づき胸を撫で下ろす。さっさと捨ててしまおうとその写真を手に取って、ぎくりとした。
「こ、れ……昨日のじゃ、ない…?」
 その写真は破りかけのようで、鬱屈そうに俯いている桃色の花は稲妻のような亀裂を帯びていた。
「なんで…なんなの!?もう意味分かんないんだけど!」
 昨日見た花でないということは、名前が眠りについてからこの部屋に侵入した誰かがいるということだ。名前は慌てて全ての鍵の確認をしたが、特に異変はなかった。無論、この部屋には家主以外誰もいない…筈だ。
 あまりの恐怖にへなへなと座り込む。今日はもう、会社に行けそうになかった。
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