目を覚ましたら辺りは暗かった。いつの間にか夜まで眠ってしまっていたらしい。ゆっくりと体を起こす。何故かベッドで眠っていた。無意識にベッドに向かったのだろうか…そう思いながら顔を上げると。
「え…」
 あの白髪の美青年がベッドの脇に腰かけている。
「ああ、おはよう」
 ふいとこちらに顔を向け、彼は至極当然のように挨拶をした。驚きのあまり名前は返答することもできない。ぼんやりと彼を見つめていると、背景があの時と同じように灰色になっていることに気がついた。そしてやはり、彼だけが色を持っていた。
「随分眠っていたね」
 名前の困惑を他所に彼は柔く微笑する。その手の中にはポラロイド写真があった。純白の、六枚の花弁を持つ花が写っている。彼はその写真をくるくると回しながら気分はどうかと訊ねた。
 そういえば先程まであった激しい眠気がない。不思議に思っていると彼はくすりと笑った。
「漸く完成か」 
「…?」
「いや、こちらの話だ。君が気にすることは何もない」
 青年は穏やかに笑うと名前の頬に手を添えた。ぬるい体温が伝わってくる。男性にしては随分低体温だ。思わず肩が跳ねてしまったが、彼は些末だとばかりに顔を綻ばせた。
「この時をずっと待っていた……やっと君に触れられた…」
 本当に、本当に嬉しそうに呟く青年。あまりにも感極まった声に名前の顔が熱くなる。今まで男性にこんな情熱的に求められた経験がなかったのである。
「昼間は眠くて大変だっただろう」
「は、はい…」
 何故それを知っているのか。不思議に思ったが彼の雰囲気が詮索を拒絶する。
「眠そうな君も可愛かったが…少し酷なことをさせたね」
「…え?」
「だがこれも君を守る為だ。分かってくれ」
 全く分からない。彼は、一体何を言っているのだろう。
「やはり写真機に魂を取り込むとなると苦労する…それも君を壊さないようにするとなると、尚更ね。まあそれが腕の見せ所というやつなんだが」
「何を…言ってるんですか…?」
「ん?君をどれだけ大切に思っているか、かな?」
 青年は朗らかに笑った。
「名前、添い寝をしてあげよう。好きな子と横になるの、憧れだったんだ」
 そう言って髪を撫でる彼の手があまりにも優しくて、名前は逆に恐怖を感じた。何か、とんでもないものがここにいる。自分では到底敵わない何かが、理屈の通じない何かが。
 ぎゅ、と手が握られる。強い力ではなかったが、名前は逃げられないと本能で悟った。
「さあ隣へ。腕枕をしてあげよう。大丈夫、怖いことなんて何もない。そう―――いい子だ」
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