吾輩は猫である、などと偉そうに言ってみる。
「ほら名前、先生に内緒で魚やるぜ」
 この銀髪の餓鬼は坂田銀時という。ご主人(松陽のことである)が拾ってきた餓鬼だ。
 銀時は吾輩の目の前で魚をプラプラと振る。まったく、人間は当たり前のように猫は魚を好むと思っているが、それは違う。猫は本来魚は食わん。いやそれだと語弊がある。食べられぬことはないのだが主食として食べるのは無理だということだ。猫が魚を好むなどという間違った知識が広まったのは…全てあの国民的アニメの所為だ。
「どうした名前?」
「…みぁ」
 しかしながらここで断れば、この餓鬼は臍を曲げるだろう。子供というのは面倒くさい。
「…みー」
「よしよし」
「………む?銀時、名前に何をやっているのだ?」
「げっ。ヅラ!?」
 魚を貪っていたら襖が開いた。中に入ってきたのは、ご主人が経営している塾内で天才だと謳われている桂小太郎である。
「まだ夕餉の時ではないというのに餌をやっているのか!?まったく貴様は…」
「良いじゃねーかよー。名前だって美味そうに食ってるし」
 だから猫は魚など食わんと言っているではないか。
「きちんと躾けなければならん。名前がダメ猫になったらどうするのだ」
「なんねーよヅラじゃあるまいし」
「何故俺なのだ!?俺はダメではない!」
 ああ煩わしい。魚を食べ終えて部屋から出る。吾輩は煩いのが嫌いなのだ。
 部屋を出て廊下を歩いていると、またもや餓鬼に出くわした。
「銀時たちはどうした、名前」
「…みう」
 銀時とよく衝突している餓鬼・高杉晋助である。
 この餓鬼は不思議な餓鬼である。他の者と違って遠くを見ている。不思議なカリスマ性がある。吾輩は此奴が心配だ、年不相応な魅力を持っているからいつか潰れてしまうのではないのかと。いつかその魅力を悪いことに使ってしまうのではないかと。
 下らぬ、猫の勘だ。
「こっち来い」
 自らの膝を叩く晋助。吾輩は素直にそれに従った。晋助はその鋭い瞳とは違う、優しくてあたたかい手つきで吾輩を撫でる。そんな晋助の手が好きだ。
「あーっ!高杉テメェ!いつの間に名前を…」
「ずるいぞ!俺にも撫でさせろ!!」
 来るのが早いな、餓鬼共。また煩くなった。だがまあそれも良かろう。
 三人の口喧嘩を聞きながら、吾輩はそっと目を閉じた。
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