「名前、銀時と晋助を知りませんか?」
 あの馬鹿二人は、ご主人によく迷惑をかける。居なくなる理由は大体同じである。
「小太郎から聞いたのですが、あの二人、また喧嘩したみたいで…」
 そらこれだ。馬鹿は顔を合わせると大体喧嘩腰になる。もう少し冷静になれぬものか。
 相手にできぬ。我輩はご主人の言葉も程々に、さっさと襖を開けて外に出た。「銀時たちを見かけたら仲直りさせてやってください」ご主人の最後のせりふが、鼓膜を震わせた。いくらご主人の頼みでもそれは聞けない。わざわざ馬鹿に関わるほど、吾輩は暇ではない。
「…ぐすっ…」
 馬鹿に関わるほど………。
「?……名前…」
 な、何故泣いている…?
 屋敷を出、のんびり散歩と思い河川敷を歩いていたら、偶然馬鹿一人を発見してしまった。その馬鹿は赤い瞳を揺らしてこちらを見つめている。
「先生…居なくなったりしねーよな?」
「…ニィ…」
「へへ、お前に言っても分かんねーか」
 何故ご主人が関わっている…ご主人のことで喧嘩したのか。子供というのは案外聡いようで。
 此奴らが寝たあと、ご主人が誰かと会って話しているところを吾輩は度々目撃する。この時、自分が猫で良かったと思う。吾輩は気配を消すのが得意だ。
 それにしても此奴らは一体いつ、ご主人の隠し事について知ったのだ?吾輩の後をつけていたとでもいうのか?
「なんかよく分かんねーけどさ、先生、今幕府に目ェ付けられててよ…俺、不安なんだ」
 ああなんだ、別に知っているわけではないのか。
「そのことを高杉に言ったらものすげー怒鳴られてよ…『お前は先生のこと信じてねーよかよ!』って。俺、悔しかった…そんでなんか…悲しかった」
「…………にー…」
「! 慰めてくれてんのか?」
 まったく…貴様にはそんな腑抜けた顔など似合わん。しょうがないから、今日は吾輩がその涙を拭ってやることにした。
「くすぐったいって、名前」
「にーぃ」
「へへ、ありがとな」
 貴様らはただ笑っておけば良い。面倒事を片すのは大人の役目だ。餓鬼が悩む必要などあるまい。だからこそ、ご主人は貴様らを遠ざけているのだ。分かったらさっさと晋助と仲直りしてこい。ご主人に心配の種を増やさせるな。勿論、小太郎にもな。
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