ゾンビマン

「うわ本物のゾンビだ」
 街の華やかな装飾など程遠い、崩壊した家並み。肉塊と成り果てた怪人の傍らで座り込んでいるのはS級ヒーローのゾンビマン。彼も肉塊の怪人と似たようにボロボロの風体だった。名前は臆することなく、血にまみれたその体に触れる。
「体張ってハロウィンに参加とは…ゾンビマンさん、中々お祭り好きですね」
「ハロウィン如きでこんなに頑張るかよ」
 そう吐き捨ててニヤリと笑う彼の相貌は、間違いなくハロウィンと合致していた。
「こんなナリになりたくてメイクしてる奴らの気が知れねえな」
「こういう体がどういう意味を示しているのか分からないから、外見だけでも体験してみたいんでしょう」
 再生には時間がかかるらしい、ゾンビマンは座り込んだままだ。少し寒さを感じたが名前も彼の隣に腰を降ろした。
「遊びに行かねえのか」
「行きませんよ。行ったらゾンビマンさん、折角頑張ってハロウィン仕様になってるのに誰も見てくれないことになるじゃないですか」
「いやだからそういうつもりでこんなナリになったんじゃねーって」
「分かってますよ」
 本当のゾンビの気持ちなんて、皆知らないのだろう。
「あ、コーンポタージュ、水筒に入れて持って来たんです。飲みますか?」
「おっ良いな。くれ」
「ここのところ一気に気温が下がって寒いから、あったかいものが欲しくなりますよね〜」
「そうだな。衣替え、本格的にとっととしなくちゃいけねえんだが…」
「めんどくさいですよね〜」
「ああ」
 コップを受け取る彼の手は、怖いくらいに青白い。頬も、唇も、ポタージュを飲む度に上下する喉仏も、どこか遠くを見つめる瞳も、普通の人間から一線引いているところがあった。
 かわいそう、と名前は同情する。死ねないだなんてかわいそう。独りなるのをただ待つだなんてかわいそう。そしてそんな弱音を吐けないのがかわいそう。
「次はクリスマスですよ」
「あ?…ったく、本当にイベントが多いな」
「プレゼント期待してます」
「やめろ、あげねえぞ」
 だけど名前は同情を隠した。同情されるほうがつらいことを分かっていたから。名前は知らないふりを貫き通して、ゾンビマンの隣に立つと決めたのだ。いつか彼が自分から弱音を吐いてくれることを期待して。名前はただ、隣にいた。