J.Matsuda

 それはひどい雪模様だった。窓の外は白一色で、景色を認識することもままならない状況だった。都心でこんな大雪は珍しい。
「わ、すごい雪」
 松田宅に遊びに来ていた名前も、今は松田ではなく外の吹雪に夢中だ。
「ホワイトクリスマスだな」
「こんな雪じゃ外に出られないけどね」
「埋もれて死ぬな」
「クリスマスに死ぬなんてやだねぇ」
 あはは、と名前は笑うと腕を擦った。暖房はつけている筈だが寒いのだろうか。
「こっち来いよ」
 そう言ってやれば、はにかんで近づいてきた。そのまま隣に座り、松田の胴に細腕を絡めてくる。胸の柔らかさに思わず喉を上下させたが、名前は気づいていないようだった。
「ケーキがね」
「うん」
「この前、上手く作れたの」
「お前料理そんなに得意じゃないもんな」
「練習したの。安室さんにね、教えてもらった」
「…ほー」
 確かに“安室”なら快く教えてくれるだろう。
「今日持ってきたやつも安室に手解きを受けたのか?」
「うん!『松田さんは甘さ控えめのケーキがお好みですよ』って」
「よく知ってんなぁ」
 ある意味で当然だが。
 そんな話も程々に、名前は不意に松田の頬に自分のそれを押しつけてきた。彼女の匂いが鼻腔を擽る。「どうした?」突然のことだったのでびっくりする。
「ほっぺとほっぺくっつけると、体温が同じくらいになるんだって」
「へぇ」
 温くなってきた頬を擦り寄せ、膝の上に彼女を乗せる。
「わ」
「ちゅーしようぜ」
「ええーっ絶対それだけじゃ終わんないよー」
「そうなのか?」
 挑発的に笑ってみせると、名前はむうと頬を膨らませて松田のそれにもう一度擦り寄ってきた。
「対面してたほうがやりやすいね」
「俺は物足りねえな」
 あたたかい――腰を引き寄せて更に密着すれば、名前は体を少し強張らせた。
「…もっと時間経ってからね」
「夜?」
「だってそりゃぁ…」
「ふーん」
 まあ、クリスマスの夜は長い。今ゆったりしていても問題ないだろう。どうせこのあと嫌でも激しい運動をするのだし、今の内に休んでおこう。
「? 何で笑ってるの?」
「んー?いや、何でもねえよ」
 ――嗚呼畜生、幸せだ。