H.Morofushi

「ねえねえヒロ、今年の秋にね、新一くんと蘭ちゃんが修学旅行に行ってきたらしくてね」
 クリスマス、名前はそんなことを切り出してきた。季節が一つ前に戻った話題にそうなんだ、と返してクリームを泡立てる。
「それでねー、ついに付き合うことになったんだって!」
「マジか。蘭ちゃんやっと報われたなぁ」
「ねー。……クリーム味見して良い?」
「急に話題が変わったな」
 小指にクリームを付着させ名前の唇まで持ってこれば、彼女は破顔して赤い舌を覗かせた。
 エロい。
「美味しいね。…それにしてもクリスマスによくお休み取れたね」
「お仕事頑張ったんですー」
「ヒロくん偉いですねー」
「ありがとーございまーす。ご褒美くださーい」
 そう言って名前に抱きつけば「えー、どうしよっかなー」と楽しそうに笑った。
「クリスマスにお休み取れた景光くん偉いですねー」
「もっと褒めて」
「んー偉い偉い。ちゅー」
「ちゅー」
 しかし本当に名前の言う通りだ。公安という厄介な仕事に就いていながらイベントの日に有給が取れたなんて奇跡に等しい。この日の為に死に物狂いで仕事をしたのは決して無駄ではなかったのだ。
「来年もこんな風に過ごせたらいいなぁ」
「もう来年の話?まだ夜どころかケーキだってできてないのに」
「…えへ」
 寂しい思いをさせてしまっているのは分かっていた。――心配も。来年どころか、明日だって無事かどうか不確定な生活を送っている。名前が来年に思いを馳せるのも無理はなかった。
 そう考えると、居ても立ってもいられなくなった。
「プレゼント贈っていい?」
「…え?いきなり?」
 驚く名前を他所にプレゼントを差し出す。彼女は受け取って良いのか迷った素振りを一瞬見せたものの、すぐに顔を綻ばせてそれを手中に収めた。開けていい?と訊ねられたので頷く。
「え…?指輪?」
「いやさ…結婚指輪じゃないけど…予約というかなんというか……」
 ていうかクリスマスに指輪ってベタすぎるだろ――今更自分でそんなことを考える。
「嬉しいっ…!」
 しかし、名前はそうは捉えなかったらしい。可愛らしくはにかんで諸伏から贈られたプレゼントをそっと抱きしめた。「……じゃ、じゃあ…ケーキ作るの、再開しようか」急に照れ臭くなり、下手な話題転換を試みる。
「ヒロの照れ隠しあからさまー」
 そう言って微笑む名前を見るだけで、クリスマスに恋人と一緒に過ごすという当たり前のことをするだけで、諸伏は幸せを実感できた。