bsr蒼赤で逆トリなんて碌なもんじゃない

 その時、名前は浴槽に浸かって鼻歌を歌っていた。
 今日も一日頑張った体を癒やす行為はなんて気持ちが良いのだろう。なによりも名前は風呂が好きだった。
 もくもくと出てくる湯気が鏡を曇らせ、名前の姿を鈍らせる。水滴が天井から落ちる度、鼻歌の間をすり抜けてぴちゃんと可愛らしい音が鳴った。その様をぼんやり眺め――名前は不意に、鼻歌を止める。別に鼻歌や水滴の音が気に食わなかったわけではない。ただなんとなく、妙な気分に襲われたのだ。
 今、気を抜いてはいけないという、緊張感に。
 するとその刹那、曇った鏡の上部に認識できないぼやけた靄のようなものが映り込んだ。
「えっなに!?」
 声を上げた途端、バシャーンッ!!と水飛沫を上げて何かが落ちてきた。
 名前が入っている浴槽に。
 この家の浴槽は、一応足を伸ばせるくらいの広さがあるものの、大人一人入るのが精一杯である。
「いってぇ…」
「なっ何でござるか!?…水?」
 だから、人が三人入る余裕などない。
 思わぬ来客に名前は身を縮こませて硬直した。言葉も出ない。泥棒にしたって何で上から落ちてくるのか。あまりの非現実的な光景に、思考回路は停止して答えを導き出せない。
「おい真田、こりゃ湯だな。妙に暑いし、ここは……」
 ふにっ。何か、胸元に違和感。理解が遅れる。おそるおそる視線を下にやれば、己の控えめな膨らみを、黒い手袋に覆われた手が掴んでいた。
「は、」
 その手の主である隻眼の男が間抜けな声を上げる。
「はっ破廉恥っ…」
「いやぁああぁぁあああぁあ!!ヘンタイッッ!!」
 もう片方の声を遮り、名前は隻眼の男に平手打ちをお見舞いした。


「見損なったでござる、政宗殿」
 ところ変わってリビングルーム。片方の赤い青年――真田幸村と名乗る彼は、絶対零度の目を伊達政宗に向けた。彼は伊達から庇うように名前を背後に隠し、伊達と対峙している。
「まさか見も知らずのおなごの…むっむねを…掴むなんて…!武士の風上にも置けぬ!」
「馬鹿かお前は!あれはどう考えても事故だろ!?そりゃお前っ…悪かったとは思うけどよ…」
 そう呟いて伊達はバツの悪そうな顔をする。
 この二人、話を聞く限りどうやら本物の伊達政宗と真田幸村らしい。外見はどう見ても戦国時代の人間のそれではないが。
「…とっとにかく、服、着替えない?びちょびちょじゃん」
「おお確かに…かたじけのうございまする。ああ、政宗殿は名前殿に決して近づかないように。某が貴殿の分の着物も持つ故」
「Ah…分かってるっつーの」
 不機嫌そうに後頭部を掻き了承する伊達。何故そんなにも尊大な態度なのか。名前は口元が引き攣ったが落ち着けと心中で念じた。



途中で力尽きた…伊達氏に冷たい目を向ける幸村が書きたかっただけ