真田幸村/BSR

「ああやだなぁ」
「どうしたでござるか、名前殿」
 朝から浮かない顔をしていると、幸村がキョトンとした顔で問いかけてきた。頬に米粒をつけた状態で首を傾げる様は可愛らしい。
「しごといきたくない」
 しかしそんな彼の可愛らしさも、今の名前の心境の前では無意味なるものだった。
 今日の名前は仕事に行きたくない気分であった。理由などない。ただ、ひどく疲れていた。人と会うのが嫌だった。無感情で仕事を熟すことに意味を感じられなかった。何の為に働いているのか分からなくなった。
「…今日の名前殿はとても悲しそうな顔をしているでごさる」
 特に何も語っていないのだが、名前の落ち込み具合を感じ取ったらしい。幸村は眉をきゅっと寄せた。
「名前殿は偉いでござるな」
「え?」
「貴殿は以前からこの仕事は好かないと申しておりました。しかしそれを我慢して熟し、今日もまた出勤されるのでござろう」
 でなければこうして準備をしておらぬ、と述べる幸村。
「たとえ何人たりがそしろうと、名前殿の行いは尊いものでござる。名前殿の今日の行いは、必ずこの世界の誰かの役に立つものでござる」
 想像以上に褒めちぎられた。呆気にとられていると、幸村はにっこりと笑った。
「今宵は宴を開きましょうぞ」
「え?」
「いつも頑張っている名前殿を労うのでござる」
「…わたし……いつもがんばってるかな」
「無論!名前殿は頑張っておられるし、偉いでござる!」
 ニコニコと微笑む幸村につられ、名前の口角が上がる。
「じゃあ今日はいつも以上に頑張って……うたげ、楽しみにしながら帰ろうっと」
「某、必ずや名前殿を喜ばせる宴を開いてみせましょうぞ!!!」
 まずはどんな夕餉に致しましょうか…と朝食を食べながら考える彼に、思わず笑みがこぼれる。
 ――今日はもう少し踏ん張ろう。なんたって幸村が労ってくれるのだから。