村塾組(吾輩主)

 冬は寒くて嫌いだ。しかし冬でなければ出でこない物もある。それが吾輩は大好きだ。
「あれ?名前は?」
「銀時、考えてみやがれ、冬に猫がいるところといえばあそこしかねーだろ」
 パサリ。暗闇に明かりが注がれる。ええい寒い、冷気が中に入ってくるではないか。馬鹿晋助め、閉じろ。
 吾輩の好きな物…それはこたつだ。こたつの中は暖かくて快適だ。外は寒くて歩けん。
「お前こんなところに居たのか。お、あったけー!」
「何!?銀時、俺にも触らせろ!!」
「ヅラうぜー!!」
 そんな冷たい手で吾輩に触るな!!!
「シャ―――ッ!!!」
「名前が怒った!!」
 まったく…これだから餓鬼はいけ好かん。吾輩が寒いの嫌いだと分かっておろうに。なのに何故冷たい手で触ろうとする。というかそれ以前に吾輩は触られるのが嫌いだ。
「ったく相変わらずおめーらはバカだな。名前は寒いのが嫌だからこたつン中入ってんだろーが。冷たい手で触ってどうするよ」
 そう言って吾輩の体を撫でる晋助の手は温かい。成程こたつに手を突っ込んで温めていたのだな。少しは考えるではないか。
 晋助はそのまま流れるような手つきで吾輩の顎の周りを掻いてくれた。ううう、気持ち良い。「ごろごろ〜…」あ、しまった。つい声が出てしまった。銀時と小太郎を見ると般若のような顔で晋助を睨んでいる。しかし晋助はそんなもの意にも介さず手は下にいって、吾輩の尻尾の付け根を掻く。あうううう、駄目だ、気持ち良すぎる。晋助ェ、もっともっと。
「〜〜〜っ高杉ばっかりずるいぞ!俺もしたい!!」
 晋助が止める前に小太郎が吾輩の背中を撫でる。うむ、まあまあだ。 
「おや皆で何をしてるんですか?」
 とここでご主人が何かを持ってやって来た。吾輩が今居る位置では何を持っているのか分からない。
「みかんを持ってきたんですが…こたつに入って食べませんか?」
「みかん!?食う!」
「名前にも特別にあげましょうね」
 こたつを出すと必ずついて回る食べ物。それがみかんだ。人間はこたつに入ってみかんを食べるのが好きな種族らしい。変わっているな。
「ほらよ名前」
 銀時が白い筋まで取って吾輩の口許にみかんを押しやる。まあ食ってやらなくもない。 
「銀時!俺にもやらせろ!!」
 そう言って小太郎も吾輩にみかんをくれる。
 分かった、分かったからもう少しゆっくり食わせてくれ。ちゃんと食ってやるから。もぐもぐもぐ…今年のみかんは去年よりも甘くて美味いな。
「ったくバカども…そんな一気にやったって名前が食えるわけがあるめェ」
「ふふ、皆名前が好きですね。かくいう私もそうですが」
 ほれもっと吾輩にやらんか。くれると言ったのは貴様らだぞ。
 「来年はもっと甘くてほっぺたが落ちそうなほどのものを用意しましょうか」ご主人の嬉しそうな声を聞きながら、吾輩は小太郎の手にあるみかんを奪い取った。ふむ、美味い。