「はーいそこのお姉さん寄って行って!年末大売り出しだよ!!」
《安くなってるよ!》
「…桂さん、何やってんですか。エリザベスまで…」
 冬もどんどん深まるこの頃、名前は外で偶然桂とエリザベスを見かけた。一人と一匹は赤い羽織を着てビラを配っていた。
 名前に気づいた桂は笑顔で彼女に手を振った。できるならそこまでテンションを上げてほしくないというのが本音だ。なんか恥ずかしいし彼らは一応テロリストだ。
「…何でこんなことしてるんですかテロリストのくせに」
《資金集めです》
「攘夷活動とかしなくて良いんですか?」
「ふん、このような年末にやるわけがなかろう。一般市民にも迷惑がかかる」
「アンタの存在が迷惑だよ」
 名前の辛辣な一言に屈することなく、桂は通る人々にビラを押し付けてゆく。攘夷活動をしていなくとも一般市民に充分迷惑がられているのは気のせいだろうか。
「大変ですねテロリストも。それじゃ」
「待て待て待て!」
「何ですか煩いですね」
 掴まれている腕が痛い。遠回しにその旨を伝えても彼には伝わらなかった。それどころか彼の手の力はどんどん強くなっていった。
「この後名前殿の家に行っても良いだろうか」
「駄目です」
「即答!?いやちょっと考えてよ!」
 年越しそば一緒に食べようと思ったのにー!と桂は駄々をこねる。彼の背後ではエリザベスがそーだそーだと書かれたパネルを振り回している(通行人に当たった)。
「年越しそば、ですか…」
「そうだ、年末といえば年越しそばだろう」
《良いおそばあるので一緒に食べましょう》
「…エリザベスがそう言うのなら」
「何でエリザベスだと了承するの!?俺は!?」
「じゃあ先帰ってますんで。終わったらうち来てください」
 マフラーをまき直し、名前は今度こそ踵を返す。
 「名前殿!」しかしまたしても桂から声がかかる。煩わしさを隠す気にもなれず、溜息をついて名前は振り向いた。
「プレゼントを持って帰るから楽しみに待っていてくれ!」
 言うだけ言って、彼は再びビラ配りに戻ってしまった。何だそりゃ―――名前は苦笑する。
「…クリスマスのノリじゃないんだから」
 帰る前にんまい棒を買って帰ろうと決めた名前なのであった。