キッド(あめ主)

 某島にて、キッドはやることもなくふらりふらりと歩いていた。街はかぼちゃやランタンなどで装飾されていて、何かイベントでもあるのだろうかとキッドは不思議に思った。
 そんな折、前方に奇妙なものを見つける。
「………ありゃあ…トラファルガーのところの…」
 白いツナギに描かれたマークはハートの海賊団のもので、腰には一振り、刀が差してある。ロー以外で刀を扱うクルーは名前の他にいない筈なのですぐに分かった。ただ一つ、腑に落ちぬ点がある。彼女の頭部が何故かかぼちゃになっているのだ。何故かぼちゃ…というか本物なのかあれ――様々な感想が渦巻いたものの、キッドは取り敢えず名前に声をかけた。
「おい」
「ンあ?その声はユウちゃん?」
「誰がユウちゃんだァッ!」
 かぼちゃがこちらに向かって歩いてくる。被り物をしているので当然だが、前方が見えない。だから彼女の足取りは危うかった。
「お前何してんだ」
「とりーっくあんどとりィーと!」
「ハァ?」
 両手を差し出してくる名前の意図が分からず、キッドはつい首をかしげる。瞬間、ひゅっと風を切る音。反射的に後退する。目の前には抜刀したかぼちゃ頭の名前。
「お、ま、いきなりなにしやがる!!」
「お菓子くれなかったしイタズラ開始」
「理不尽だなお前!?」
 あまりの横暴にキッドも怒りを露わにする。その時、「何をしているんだ、キッド」とキラーが声をかけてきた。
「名前…?も一緒か」
「よく一目見て分かったな」
「まあな。というか名前、それ、反対じゃないのか?回してみろ」
「ンあ?」
 キラーが指差したのはかぼちゃ。名前はキラーに言われた通り、かぼちゃをくるっと回すと口と目が繰り抜かれたかぼちゃになった。その穴から名前の顔が窺える。
「お前反対に被ってたのかよ」
「キシッ」
「それはそうとキッド、さっきから名前と何をしていたんだ?辺りがざわついているぞ」
 キラーに言われ、周囲に目を配ると確かに一般人が不審そうな目でこちらを遠巻きに見ていた。その不躾な視線に少し苛立ったが気を取り直し、キラーに「こいつがいきなり攻撃してきた」と述べた。
「チガウ、イタズラ」
 すかさず名前が訂正を入れる。
「あれのどこが……っ!!」
「…もしかしてトリックオアトリートのつもりだったのか?」
「ウン」
「と…?なんかお前もそれさっき言ってたな」
 既視感を覚え、キッドは頭を巡らす。ついでに名前が両手を自らに向けて差し出していたことも思い出す。
「とりっくあんどとりィーと!」
「名前、それじゃあお菓子を貰ってイタズラすることになるぞ」
「おいキラー、そのトリックなんたらってのは何だ」
 二人の会話について行けず、キッドはキラーに問いかける。
「Trick or Treat…お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、という意味だ。ハロウィンの常套句だな」
「お菓子くれないならテメーの首寄越しな、キシッ」
「それただの脅しじゃねえか」
 はぁ、と溜息をついてキッドはポケットを漁る。名前のイタズラ(という名の殺し合い)には付き合っていられないので早々に帰ってもらおう。そう思ったのに、こういう時に限って飴玉やらチョコなんてもの、キッドのポケットには入っていなかった。
「名前、俺からはこれだ」
「わーいチョコ!チョコ!」
 傍らではキラーが既に名前に餌付けしている。チョコを口の中に入れた名前は、次の獲物とばかりにキッドに顔を向ける。
「お菓子…」
「ぐっ…待て、その辺の店で買ってやるから刀をしまえ」
「無いなら首イタダキィィィィッ!!」
「ふざけんなテメェェェェェェェ!!」
 こうしてキッドはこの日を、かぼちゃ人間との追いかけっこで消費した。
「キシッ、キシシッ!!」
「この…っ保護者は何してやがんだァァァァァ!!!」