ミカルゲ

 薄暗い部屋の中に、ポウとジャック・オー・ランタンが光る。黄色の仄かな光にはあたたかみが感じられ、とても鬼火のようには思えない。伝承上では悪賢い遊び人が悪魔を騙し、死んでも地獄に落ちないという契約を取り付けた。が、死後、生前の行いの悪さから天国へ行くことを拒否され悪魔との契約により地獄に行くことも叶わず、かぶに憑依し安住の地を求めこの世を彷徨い続けている姿だと伝えられている(無論、いくつか諸説がある)。
「可愛いなぁ」
「ゆら〜」
 かぼちゃを撫でているとミカルゲが寄ってきた。これなあに、とばかりにまじまじとかぼちゃを観察している。
「今日はハロウィンだからジャック・オー・ランタンを作ったんだ〜」
「……」
「あ、わかんない?でもまあランタンなんか無くてもミカルゲが悪霊から守ってくれるもんね」
「ゆら〜!」
 そもそもミカルゲ自体が悪霊と大差ない存在だし、という言葉は飲み込む。ミカルゲは当然だとばかりに胸を張る(ような仕草をした)。その態度にやはり余計なことは言わなくてよかったと名前は思った。
 不意にミカルゲがサイコキネシスを使ってランタンを動かす。何をするんだろうと思ってそのままにしておくと、あろうことかミカルゲはランタンを外に追いやった。
「こらこらミカルゲ!」
「ら〜〜〜っ!!」
 慌てて取りに行こうと立ち上がったが、ミカルゲがそれを制す。ここにいろとばかりに立ちはだかってきたので、名前は仕方なく腰を降ろした。
「……あんなん無くても良いって?」
「ゆら〜!!」
 そうそう!と言うようににっこり笑うミカルゲに、名前は苦笑を洩らす。しょうがないなあと呟いてから名前はミカルゲの好きなポフィンを箱から取り出した。
「今日はハロウィンだし、ポフィンも豪華だよ」
「ゆら!」
「うんうん、私も一つ…」
 するとポフィンが浮く。ミカルゲの仕業だというのはすぐに分かった。彼はポフィンを名前の口許まで持っていくと「ゆらー」とまた一つ鳴いた。成程、食べさせてくれるらしい。ぱくり、一口頬張るとミカルゲは満足そうにまた笑い、己もポフィンを食べ始めた。その姿に何とも言えない母性本能がくすぐられる。
「まだまだあるからいっぱい食べようね!」
「ゆ〜ら!」
 薄暗い中だったが、不思議と明るく感じられる。
 まだ、夜は始まったばかりだ。