08

 それから、錦を傍に置いて三日ほど経過した。一つ彼女について分かったのは、錦は元々上級貴族の娘であり、かつて本当に貴族の覇権争いに巻き込まれたことがあったということだ。それは様子を見に来た市丸から世間話のように聞いたことで、訊ねてもいないのに彼はぺらぺらと話した。当時は大変な騒動になったそうだが、錦の身の上などグリムジョーにとってどうでも良いことだった。
 そしてもう一つ、判明したことがある。
 錦はどういうわけか破面と打ち解けるのが上手かったのだ。
 グリムジョーの従属官たちは勿論のこと、男の癖に女口調の第二十刃の従属官や、十刃落ちの女破面とはいつの間にか友人関係になっていた。そのことをディ・ロイに訊けば「俺が気づいた時には女同士で盛り上がってた」としか言えず、当てにならなかった。というか、友人の内の一人はどう見ても男だろう。何だ女同士って。
「…変な奴だな、お前」
「?」
 あの時、刃を交えた死神と同一人物とは思えない。
「グリムジョーはいつも不機嫌そうだな」
 そしてこいつは失礼なことを堂々と述べる。この辺りは前の時の彼女も同じように口にしたかもしれない。前と今で共通することは、彼女は良くも悪くも素直だということだ。
「……別に不機嫌じゃねえ。余計な詮索せずにてめぇは適当なところで遊んでろ」
「てめぇじゃない」
「あ?」
「最初に会った時から『お前』だの『てめぇ』だの不愉快だ。ちゃんと名前で呼んでくれ」
 一々面倒な奴だ。まあ、お貴族様からすれば付けてもらった名前に意味があるのだろう。
「…分かったから、取り敢えず俺の邪魔だけはするなよ」
「私は何か邪魔になるようなことをしているのか?」
 グリムジョーは最初、芦屋錦は貴族なのだから金と権力に惑わされた愚かな娘に違いないと踏んでいた。
 しかしその予想は外れることになる。
 意外なことに錦は別段不快な我侭を言うわけでもなく、ただ好奇心を満たす質問や散歩をするだけで、あれ持ってこいそれ欲しいといった類の我侭を言わなかった。加えて頭脳もあるようで、踏み込むべきところとそうでないところの判別も上手い。なんだか錦は、想像していた貴族のイメージとかけ離れていた。
 とはいえどんな奴だろうと、面倒なことに変わりはない。
「なあグリムジョー、ちょっと気になっていたんだが」
「…今度は何だ」
「貴様が腰に差しているそれは斬魄刀か?」
 錦は隣に座り、触りたそうにそわそわしながらグリムジョーの刀を凝視する。
「死神と同じ斬魄刀なのか?」
「………俺たちの刀は、能力の核を刀の形に封じたもの。死神のそれとは違えよ」
「じゃあ能力を解放すれば形が変わったりするのか?」
 それは、死神でいう始解や卍解のことを指しているのだろうか。
「“帰刃レスレクシオン”はある…が、死神と同じモンかって訊かれると……多分違う」
 ――――逐一説明してる俺はどうかしてんな。
 内心自嘲するが、藍染からの指示故付き合ってやる。
 かなりアバウトな答えだったが、それで満足したらしく錦は微笑した。
「そうなのか。ありがとう」
「は?」
「ん?」
 どうした?と目で訊いてくる錦に何でもねえも答え、グリムジョーはちょっとした動揺を鎮める。些細なことであったが、藍染以外に、しかも何の皮肉もなく“ありがとう”と感謝されたのは初めてだったので僅かに驚いただけだ。刀のことを教わった程度で感謝するなどどうかしている。錦は本当にわけが分からない奴だ。やはり死神としての記憶がない奴と関わるもんじゃない。グリムジョーは何度目か分からない溜息をついて、もう別のことに興味を示している錦をぼんやり眺めた。
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