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「グリムジョーは王様なんだって?」
 ある日のこと、錦が唐突にそんな言葉を口にした。「…なんだよ急に」彼女の口から王様などという単語が出ると、ひどく幼稚じみたように聞こえるのは何故だろう。内心不思議に思いながらも彼女との会話を続ける。
「ディ・ロイが言ってた。グリムジョーは俺たちに勝ったから俺たちの王様なんだって」
「へえ」
「良いなぁ」
 羨ましがる声音に思わず反応する。「お前も王になりたいのか」例えこのような無力な女であっても、王になりたいなどと宣えば即刻グリムジョーの敵だ。
「いや全然」
 しかし返ってきたのは想像とは真反対の言葉だった。思わず間の抜けた顔をする。錦はそんな様子のグリムジョーなど意に介さず話を続ける。
「何故なら私は王様よりももっとすごい立場にいるからな」
「…へえ」
「お前にだけ特別に教えてやる」
「興味ねえ」
 ばっさり切れば案の定彼女は不満そうな表情をした。
「私は王様の友達だ」
「……は?」
「そう、友ということは唯一王様と対等だということだ。どうだ、すごいだろ」
「お前ダチに王がいるのか」
 元上級貴族といえど友人関係が凄まじいなと素直に感心していれば錦が「…何を言っている」と呆れた。
「王様はお前だろう」
「!」
「何故今の会話で王様が他にいると思う。国語力が足りないな」
 かなり馬鹿にした声音だったが、今はそれが気にならないくらいグリムジョーの意識は先程の彼女の発言に持っていかれていた。
 錦は、一分の偽りも侮りもなく、純粋に彼を王様だと認めた。それが虚圏でどれ程の価値を持つものか、きっと彼女は理解していない。きっと丁寧に説明したところで理解する気もないだろう。
 彼女の発言には何の権限もない。しかし、グリムジョーにとってその“何の疑いもない承服”は途轍もない意味と力を持っていた。
「だから私は凄いんだ。王様と友達だから」
「……俺とお前はダチじゃねえし。調子に乗んな」
「小突くな」
 ――何でこいつは。
 言いようのない感覚がグリムジョーを襲う。それは戦いの最中時折得る快感に似ていながらも、相反してひどく緩やかで柔らかくもあった。このあまりにも微温い衝動の名をグリムジョーは知らない。知りたくもなかった。知ってしまえば最後、取り返しのつかないことになる――そんな危機感があった。
「お前って…何でそんなに変なんだ」
「グリムジョーって失礼なことを堂々と言うな」
「てめぇに言われたかねーよ」
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