06
何人かの破面がもう一度現世へ向かうと、ルピが言った。「僕も呼ばれたんだよねー」
錦が作ったアップルパイを咀嚼しながら彼は述べる。「因みに元六番さんも行くみたいだよ」意地悪くニヤリと笑うその様に、挑発されているのだと気づく。本当に性格が悪いなと最早怒りよりも尊敬の念を抱き、ただ一言そうかと返した。ルピはつまらなさそうに頬を膨らませた。
「まあ死神の首を持って帰るから楽しみに待ってなよ」
「精々気をつけて」
「……アンタって怖いモン知らずだよね」
怒る気もないのか、ルピは最後の一口を飲み込んでから続ける。
「こうやって何とも思わず暮らすなんてある意味強い生物なのかもしれないけど、僕なら絶対ごめんだよ」
少し、含みのある言い方だと思った。錦は藍染に保護されただけのに、ルピの発言は何故かそれを責めているように聞こえた。まるでこれが普通ではないような――それは最初の内に勘づいたが――ままごとでもしているような感覚。
「その点グリムジョーは満更でもなかったんだから笑える」
「…!」
「ったく、どいつもこいつも腑抜けやがって…」
次第に不機嫌になっていく彼の顔色に冷や汗をかきながらも残りのアップルパイをさっと机に置いた。一転、彼は嬉しそうに口元を緩めてフォークをアップルパイに突き刺す。
「キミがお菓子作りっていう特技を持ってなかったらホントに殺してたかも」
「…皿はちゃんと桶に漬けておいてくれ」
「そんなのグリムジョーに言ったことないくせに」
奴には手料理を振る舞ったことなんてない――という言葉を飲み込んで錦は部屋を出た。ルピはついて来なかった。
さて、部屋を出た錦が向かった先は最近仲良くなったテスラの私室であった。先日の約束通り、他の菓子の作り方を教えに来たのである。まさか彼が菓子作りに目覚めるとは意外だったが、これも全て主君の為だと言っていたのである意味納得だ。どうやら破面にも“尊敬”という感情があるということを、錦はテスラから学んだ。
今回はフォンダンショコラということで、チョコレートを湯煎しながら錦は「ところで」と以前のように口を開いた。
「皆がまた現世に行くってルピから聞いたんだけど」
「ああ、らしいな。ノイトラ様は行かれないようだ」
「それで…その…」
「グリムジョーも同行するらしいな」
なんでも藍染様直々に同行を訊かれたらしい、と述べるテスラ。錦が聞きづらいことを敢えて何でもないようにあっさり口にするところに救われている。
「あれから一回も姿を見ていないのか」
こういう遠慮のなさも、案外悪くない。
「…ああ」
「まあそうだろう。奴からすればお前に今の姿を見られるなど屈辱以外の何物でもない」
「そんなに私に頼りたくないのだろうか」
「…いや、そういう意味じゃない」
じゃあどういうことだと彼の目を見れば、何とも言えない色をしていた。
「多分…」
「多分?」
その先はどういうわけか沈黙だった。どうして何も言わないのだろうと首を傾げるが、テスラは複雑そうに唇を歪めるだけで言葉を発さない。
「テスラ?」
「……いや、やはり分からない」
あれは野蛮な生き物だからなと呟いてチョコレートに目を落とす彼の横顔からは何も窺うことはできない。絶対思うことがあったのだろうと確信したが、今の錦には彼の心中を暴くことはできなかった。どいつもこいつも私には何もかも秘密にするんだなと辟易しながら、渦を巻くチョコレートを眺める。無意識に口が開いた。
「みんな死んでほしくないな」
「…!」
「無事に帰ってこられたら良いのに」
呟けば、テスラはひどく驚いた顔をしていた。そして何か奇妙なものでも嚥下したような表情に変えたかと思えば
「お前はおかしな奴だな」
と至極真面目に述べた。