07
今回は目くらましの為の襲撃だということを、グリムジョーは思い出す。しかしそんなことはどうでもいい。己の獲物の命を獲ることに全てを捧げる。それだけだった。黒崎一護を追い詰めたかと思えば援軍の女死神が氷でグリムジョーを足止めした。しかしそれを難なく脱し虚閃を放とうとしたが――何者かの急襲。一護と同じ仮面の能力を有する男に、グリムジョーは次第に防戦一方になっていった。
――どいつもこいつも邪魔しやがって!!
「なあ、一つ気になってることあんねんけど」
「あァ!?」
戦闘中にも関わらず呑気に質問をけしかけようとしているその様に苛立つ。どうだって良いだろとばかりに剣を大きく振り下ろそうとした瞬間。
「何でお前、芦屋錦の霊圧纏ってんねん」
刹那。
一瞬で。
俄に、理性が戻る。破壊欲求が、みるみる内に萎んでゆく。頭が働く。まともになる。冷静になる。
孔が、埋まってゆく。
「あいつの霊圧感じたんなんか随分昔やけど覚えとるわ。お前、最近錦に会うたんか」
「……」
「この場にあいつは来てへんのに…どこで会うたんや。まさか交戦したんとちゃうやろな?」
こいつと錦は面識があるのか――?
斬魄刀を持っていながら死神の風貌はしていない奇妙な男との繋がりは気になるものの、それよりもグリムジョーは己の行動に愕然とした。彼女の名前を出されたことにより、瞬く間に戦闘意欲を失くした事実に衝撃を隠せなかったのだ。それは、虚としてあってはならないこと。存在理由を自らの手で消すことと同義であった。
「…………ハッ、そんなもんてめぇには関係ねえだろうが!」
迷いを振り払う。
「軋れ――!!!」
解号を唱えきる前に、グリムジョーの柄を握る手に冷たいそれが触れた。ウルキオラだった。それはつまり、任務完了を意味した。
「くそっ…」
「頭を冷やせ、グリムジョー」
忌々しげに舌を打つが、ウルキオラは涼し気な顔である。
「お前はいつもそうだ。あの死神を捕える時も…」
「うるせぇ!」
よりによって何でこのタイミングで錦を話を持ち出すのか。まさか狙ってやっているのではないかとさえ疑う。苛立ちが収まらぬまま黒腔の中へ戻る。彼はグリムジョーを一瞥すると、そのまま歩き出した。
戦闘から十二時間が経過した頃には傷は完治していた。敗死した破面はいなかった。全員帰還したのち、玉座の間へ集められる。部屋には藍染と一人の知らない人間がいた。
藍染曰くこの女の能力“事象の拒絶”は人の領域を超えるものらしく、それを求めた故に今回の陽動作戦を立てたらしいが、隣にいるルピは自分が囮に使われた理由が人間如きを捕える為だったということに腹を立てていた。
「だったら証明してみせよう」
あろうことか彼は女に対してグリムジョーの失った左腕を再生してくれと言った。
「ハハッ…そんなのできるわけ…!」
ルピは嘲笑しながら女の動向を睨めつけていたが、観察していたグリムジョー自身も自らの目を疑った。
腕が、元通りになった。
模造ではない。寸分違わぬ己の腕だった。動作確認をしてみてもおかしなところはない。何もかも戻った。落とされる前の己に、戻った。
ならばやるべきことは一つ。
「女、こっちも治せ」
「は…はい」
「は?何のマネだよ…グリムジョー!」
戻したのは消した筈の背中の数字。
――これで元に戻れる。
グリムジョーは確信した。これで、何もかも以前と同じになる。ルピを殺して六番の座に戻れば、また隣に並べる。あの馬鹿げた会話ができる。
そう、無意識に安堵していた。