03

 何故死神がこんなところにいるのかグリムジョーには分からなかったが、取り敢えず目の前の敵に集中することにした。しかしそんな胸中など露知らず、戦いの最中でありながらアシドという死神は語りかけてくる。
「貴族の覇権争いとは何だ」
 ――やっぱ食いついてくんのかよ。
 アシドがどの程度ここにいるのか知らないが、あまり下手なことを言って事実と異なると勘付かれるわけにもいかない。そういう設定であるということ以外、グリムジョーも詳細を知らないのだ。
「てめぇには関係ねえよ」
「芦屋家は四大貴族に次ぐ大貴族だ。その血筋の者が理由もなく虚圏に来るわけがない」
 ましてや死神の霊圧を持った者が、と小さく呟き、アシドは背後から来た虚を斬る。こんなことなら市丸辺りに芦屋家のことを真面目に聞いておくんだったと後悔しながら、負けじと応戦する。時折錦に目をやりながらグリムジョーは言葉を返す。「ハッ!じゃあその理由とやらがあったんじゃねえのか?」――藍染の玩具、という理由ならあるが。
「…死神を裏切る理由、か」
「裏切ってんのかは知らねえよ。ただ、利用されてるだけかもしれねえぞ。結構能天気な奴だしな」
「………お前はあの者を庇っているのか?」
「は?」
 意外だとばかりに見られ、グリムジョーは動きを止める。彼が何を言っているのか理解できなかった。庇う?誰が、誰を?
 何とも言えない沈黙が支配していたが、顔を見合わせていたアシドが突然バッと錦のほうを見た。唐突な行為に釣られて視線をなぞれば、錦の背後に虚が迫っていた。
「ばッ――」
 ――馬鹿野郎!気づけ!
 強い彼女を知っているからこそ、歯痒い。
 二人の視線に気づいた錦が振り返る。どう考えても誰も間に合わない――そう、確信した次の瞬間、彼女が掌を虚の前に突き出した。
「蒼火堕!!」
 刹那、彼女の掌から蒼炎が噴き出し、敵を燃やし尽くした。
 想定外の出来事に誰も動けずにいる。アシドでさえ彼女の元に行きかけた足を止めていた。やはり死神ではないかと彼の空気が言っているが、それに返事をする余裕はない。
「グリムジョー!今の見たか!?すごいだろう!私、鬼道が使えた!」
 大喜びする彼女に、何と声をかければ良いのだろう。
「……ああ、すげーんじゃねえの」
 あれはきっと彼女の本能だ。命の危機に瀕したから、防衛本能として鬼道を使った。体が、魂が、覚えているのだ。死神としての記憶を。
 それは当然で、普通のことだ。彼女が死神であるなど初めから分かり切っている事実だ。そしてそれをいつか思い出すというのも、世の理だ。そうだというのに、グリムジョーは何故か胸に孔を穿たれたような気分になった。
 虚を全て片づけた後、錦が死神であるということもあり気を遣ったのか、アシドの案内により出口を発見した(蟻地獄を引き起こした虚は道中で叩き潰しておいた)。
「この先を抜ければ地上に出られる」
「ありがとうアシド、おかげで助かった」
「……気にするな」
「お前はこのままずっとここにいるのか?」
「ああ」
 当然とばかりの声音に、錦は残念そうにした。彼をここに一人きりで置いていくことが心配なのだろう。好き好んでここにいるのだから一々気にする必要などないというのに。やれやれと肩を竦めたところでアシドがグリムジョーに目を向ける。
「訳ありだということは理解した」
「……」
「だがきっと、そう長くは続かないぞ」
「何の話をしておるのだ?」
「…錦が気にすることじゃない」
 構うなと手を振るアシドは、錦がただの死神でないことに気づいている。鬼道を撃てたことを大袈裟に喜んでいた辺りから、彼女が死神であった事実を忘れていると察したのだろう。まるで原因はお前かとばかりに睨みつけてくるので、溜息をつきたくなる。
「こっちだって色々あんだよ。てめぇみたいに引き籠ってる奴とは違ってな」
「確かに俺は今の護廷隊とほぼ無関係なくらい長い間、尸魂界から離れている。だが同業の者の心配くらいしても罰は当たらないだろう」
「そうかよ。……行くぞ錦」
 彼女は二人の間に不穏な空気が流れていると気づいていたが、特に何も述べずにグリムジョーに従った。こういう時に限って大人しくなるのだから堪ったものじゃない。小煩く喚いてくれでもしたら、躊躇なく置き去りにできるのに。
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