2020/07/31 HB Grimmjow
「グリムジョー!!」怒っているような声が聞こえた。振り返れば、お守りの相手である芦屋錦が不満そうな顔でこちらを睨みつけていた。
「んだよ」
「どうして教えてくれなかったんだ!」
「ハァ?」
何のことかと一考するがよく分からない。仕方がないので彼女を見つめれば、痺れを切らしたように述べた。
「誕生日だ!」
「……あ?」
「だから、誕生日!」
――そういやそんなもんあったな。
あまりにも馴染みのないものなので忘れていた。その生まれ落ちた日付けは、どういうつもりなのか藍染が一々全ての破面に教えていたような気がする。グリムジョーも破面として生まれた直後まではその日を覚えていたがすぐにどうでも良くなったのだ。
そんな何気ない日付けに関して、錦は妙に怒っていた。
「それがどうした」
「どうしたじゃない!めでたい日だろう、お祝いしなければならない」
「は…?また妙なこと考えつくもんだな、てめぇは。先に言っておくぜ、余計なお世話だ」
「今更そんなこと言っても聞かないぞ」
「アぁ!?」
どういうつもりだと睨みつければ、臆することなく錦は笑顔になった。
「既にディ・ロイたちがお祝いの準備をしている!」
「は!?!?」
「ほら、あとは主役だけだ!まったく…お前が教えてくれないから祝い品さえ用意できておらぬのだ。だからその辺は勘弁してくれ」
「ちょっと待て!そもそもてめぇ何で俺の誕生日知ってんだよ!」
「市丸殿から教えていただいた」
――あの狐野郎!!
余計なことを喋りやがって!と内心で悪態をつくが、グリムジョーの想像の市丸は相変わらずのヘラヘラした笑みを浮かべてのらりくらりとしていた。
「何で一々そんな面倒くせえことしなくちゃなんねえんだよ!」
「面倒ではない。素晴らしい日だろう」
「ハッ、そりゃてめぇからすりゃそうだろうよ」
貴族の連中にとっては誕生日というのはさぞかし意味のあるものだろう。なんたって、生まれてくることが祝福された日なのだから。だが破面は違う。存在が感謝されるような者たちではない。確か第五の破面が言っていた。俺たちは救いのない存在なのだと。彼と意気投合したことなどなかったが、その考えだけは素直に頷けた。
だというのに――。
「私はグリムジョーがいてくれて良かったから、是非この機会にグリムジョーの誕生日を祝いたいと思ったんだ」
「……!」
「ディ・ロイやシャウロンたちもきっと私と同じ気持ちだ」
恥ずかしげもなくそう述べる錦に、何とも言えない気持ちが湧き出てくる。
「さあ行こう。皆お前を待ってる」
彼女の手は柔らかくて、ただ、生きているという実感が芽生えた。
引かれた腕は、どうしてか払う気分にはならなかった。