02
漠然とした不安だった。それだけが、錦の胸を支配していた。召集がかかって出て行ったグリムジョー。その時の彼の瞳がどうしても気になった。何かを案じているような、色。最近よく乗るようになったその色に、錦はいつも不安になった。良くないことが起こるのだろうか。そしてそれを、彼は知っているのだろうか。いつも何も言わないくせにああやって態度には結構出るのだ。本当に焦れったい。
「早く帰ってこないかな」
誰に言うわけでもなく呟いて図鑑の表紙を撫でる。これを買ってくれたウルキオラとは最近会っていない。花壇にも顔を出していないし、人間の少女の世話で忙しいのだろうか。また二人で何か作りたいなあと考えながら、微笑を浮かべる。
その時だった。不意に、グリムジョーが近づいているような気がした。
じっとドアを見つめていたら暫しして開いた。隙間から覗いた空色に、どうして彼が来ることが予測できたんだろうと内心驚く。
「あ?なに間抜けなツラしてやがる」
「えっと……」
「…まあ良い」
返事をする前に何かを投げつけられる。軽いものだったので痛くはなかったが、それでもいきなりだったから顔面で受け止めてしまった。
「何をする!」
「着替えろ」
「…え?」
「今すぐだ。終わったら出てこい」
疑問や反論は許さないといった感じでまくし立てると、彼はドアを閉めた。
一体何なんだと頬を膨らませる。あとで文句を言ってやろうと企みながら渡されたものに目を落とす。
見覚えのある、黒い着物だった。
「あの…どうしてこんなものを?」
「行くぞ」
先程までと雰囲気が違うことに戸惑いながらもグリムジョーの後を追う。有無を言わさぬそれに、どうしてか初めて会った時のことを思い出した。あの時の彼もこんな感じで壁を作って――。
――違う、そうじゃない。
――初めて会った時、私たちは命のやり取りを………?
「この先」
入り組んだ長い廊下を練り歩き、おもむろに彼が止まる。言葉につられて正面に目を向ければ薄暗い廊下が待っていた。先は、見えない。胸に広がっていた不安が濃くなる。嫌な予感がして彼を見上げれば、彼はただ冷めた目でこちらを見た。
「……この先はてめえ一人で行け」
「は?」
「突き当たりの部屋にてめえの斬魄刀が封印されてるらしい。自分のならなんとか解いてみろよ」
まったく意味が分からない。どういうことだと目で問えば、彼はポケットに手を突っ込んで正方形のキューブを取り出した。前に錦を護る為に渡してくれた装甲に似ている。
「こいつに霊力を込めれば虚じゃなくても一回だけ黒腔が開けるらしい」
「え…え……?」
そしてグリムジョーは言った。
「これでてめえはとっとと帰れ」