03
驚愕を浮かべて瞠目している彼女の背後にある廊下の先は暗い。これからこの先に一人で行かせるのかと、罠があるやもしれない暗闇を睨めつける。だがそれでどうにかなるわけでもない。ちらりと下を向けばいまだにこちらを見つめる彼女がいて、思わず面白くもなんともない横の灰色の壁を視界に収めた。これしか方法がなかったのだ。これ以外にこの死神を突き放す方法を、グリムジョーは知らない。
「一体……どういうことだ…?」
説明を求める彼女の姿勢は尤もだ。
「帰れって…どこに?藍染殿は…」
「あんな奴に敬称なんか付けるな」
お前の繋がりを絶たせたような奴に――という言葉をなんとか飲み込む。今は何を言っても無駄だというのは分かっていた。
「グリムジョーはこれからどこに行くんだ?」
「……教えねえ」
「…殺しに、行くの?」
死神を、と小さな声で付け加えられた単語に思わず目を丸くする。それを是として捉えた錦は困惑の表情を見せる。
「グリムジョーは死神の敵なの?」
「……」
「藍染…さん、も?」
「……」
やめてくれと、明確に願った。
「……私は?」
だって。
「私はグリムジョーの敵なの?」
どうしたって彼女は、肝心なところで恐ろしく鋭いのだ。
きっと明確な根拠なんてない。しかし、なんとなく察しているのだろう。自分が今、死覇装を着ている理由と、今までの違和感を。
「…グダグダ言ってねえでとっとと行けよ」
「でもっ」
「うるせえな!行けっつってんだ!」
びくりと跳ねる華奢な肩。同時に、錦の瞳に影ができる。
嗚呼、苛々する。そんな風な瞳に苛々する。いまだグリムジョーを信じる錦に苛々する。錦に傍にいてほしいと思っている己に、苛々する。
「てめえがいたら邪魔なんだよ!行けッ!!」
その瞬間、錦はひどく傷ついた顔をした。鈍いグリムジョーにも分かるくらい、眉をしかめて、苦痛に耐えるような顔をした。
錦は暫く茫然としていたが、掌にある装甲を握り締めるとグリムジョーに別れの挨拶もなく走り出した。その黒い背中が闇に消えるまで、ただじっと見つめた。
錦は一度も振り返らなかった。
―――これで良い。
―――やっとお守りから解放される。
―――藍染の奴には、面倒くさくなったって言えばいい。
一旦彼女のことは頭から振り払おう。とにかくこれで彼女はここから離れられる。何も心配はないのだ――。
それは確かな筈なのに、グリムジョーの腹の孔には、ずっと風が吹いたままだった。