04
暗い、暗い道だった。えも言わぬ恐ろしさと寂しさがない混ぜになって、錦の心を抉る。グリムジョーの怒声も鼓膜にこびりついて離れない。どこか悲しげに怒鳴った彼に、こちらまで悲しい気持ちになった。最後に彼に貰ったこの謎の装甲を落とさないように握り、錦は走り続ける。やがて眼前に扉が現れた。簡素な作りのそれを押し、中へ入る。どういうわけか、この部屋の中に自分を呼ぶ誰かがいると確信していた。
室内には、一振りの刀が置かれていた。
「これは……」
見覚えのあるそれに不安を抱く。大切なことを忘れているという、実感。
刀に触れるのが怖い。触れてしまえばもう二度と、戻れない気がする。だが空白の記憶を埋めるにはそれに手を触れるしかないと、理解していた。
『てめえがいたら邪魔なんだよ!行けッ!!』
あんな風に言われたのは初めてだなと自嘲し、錦は刀の鞘を掴んだ。
途端、流れ込んでくる情報――――記憶。
「嗚呼」
馬鹿だな、と。真っ先に思ったのはそれだった。なんて脳天気な奴だったんだと馬鹿馬鹿しくなる。ここ数ヶ月、彼はきっと大変な思いをしていただろう。それなのに自分は我儘ばかりを言って。無邪気にも笑顔を振り撒いて。
友達だなんて、綺麗事を。
『……錦は、ここにいて楽しいか』――あの言葉を、シャウロンはどんな思いを持って口に出したのだろう。次にグリムジョーについて訊ねた彼は、これからの二人の関係を案じていたのかもしれない。悪いなシャウロン、と今はいない彼に詫びる。
「遅い目覚めだったな」
瞬きの間に背後に現れた気配。彼らに対する思いを一旦塞ぎ、振り返れば懐かしい姿がそこにあった。
斬魄刀の具象化した姿。
「死神の鬼道に所有者と斬魄刀の意思疎通を阻害する技があるとは思わなんだ」
「……白伏に特殊な鬼道を練り込んだんだろう」
「成程」
藍染がどのような能力を以って錦の記憶を改竄していたのかは知る由もないが、こうして取り戻した以上、何もしないわけにはいかない。
なにより、錦はグリムジョーの意図を完全に理解しているのだから。
「その怪しげな箱を用いれば帰れるのか」
「らしい。前にグリムジョーが言ってた奴だ」
虚以外の者が黒腔を開ける方法。所謂、これがその方法とやらなのだろう。これをどこで手に入れたのか知らないが、錦の為に用意してくれたことは自明だ。グリムジョーはここから錦を逃がすつもりなのだ。おそらく藍染に黙って。
「何を迷っている」
憮然とした態度の半身。「躊躇うことなどない」溜息混じりのそれに、身が竦む。
「御前のやりたいようにやれば済む話だろう」
直後、大きな霊圧の震えを感じた。グリムジョーと黒崎一護のものだ。二人は戦っているのだろう。
錦は装甲を袖丈に収めると、刀を腰に差して踵を返した。
「行くのか。あの虚のところへ」
「ああ」
錦の決意を聞き届けた半身は、特に何も言わずに霧散した。好きなようにしろということだ。
「もとよりそのつもりだ」