09
「処置、完了しました」四番隊隊長・卯ノ花烈のその言葉に礼を述べる。気まずかったものの、彼女はいつもの優しい微笑みでそれを受け取った。
「ご無事で何よりです。貴女が行方不明になって、京楽隊長はとても心配されていましたよ」
「そうですか…」
「あと綾瀬川五席と斑目三席も」
あの二人には昔から余計な心配ばかり抱かせてばかりで本当に申し訳なくなる。卯ノ花曰く、二人はまだ治療中らしいので後で会いに行くことにした。
「よ、久しぶりやなァ」
「なっ…!?」
会話が途切れたのを見計らったのか、随分懐かしい顔が現れた。
元五番隊隊長・平子真子。昔より髪が短くなり現世らしい服装に身を包んでいること以外、特に変わりなかった。
「俺のこと覚えとるみたいやな。関心関心」
「えっと…どういうこと……ですか」
「助っ人に来たったんやで?もっと嬉しそうにしろや。てかお前が敬語使うとかキモイで」
困惑で驚きのあまり声を失くしていると「ところで」と勝手に話題を変えてきた。
「なんやお前攫われとったらしいやん。大丈夫やったん?」
「え、あ、はあ、まあ…」
「釈然とせん返事やな」
呆れ口調ののち、平子は錦の隣に腰を降ろす。卯ノ花はいつの間にかいなくなっていた。
「蒼髪の破面と戦った時、お前の霊圧感じてん。知り合いやったんか?」
誰を指しているのかは分かっている。適切な言葉を見つけられず黙っていると、平子が溜息をついた。何故そんなに怯えているんだとばかりに。
「俺今は護廷隊入ってへんねんから何言うてもええやろ」
「…そういうものですか」
「そういうもんや」
ニヤリと笑う姿は過去のものと同じだ。相変わらずのらりくらりとした人物である。
「あいつ破面やん。酷いことされへんかったん?」
「…はい。あいつは………私を護ってくれました。隣にいてくれました。慰めてくれました」
「……」
「…藍染はそれをただの副作用だと嗤いました。心らしきものが生まれただけだと。暫く経てば失くなるものだと」
「まあ、ゆうて虚やしなぁ」
同意するかのような発言に、胸が苦しくなる。結局は錦は死神で、グリムジョーは虚に過ぎないのか。
「…やっぱりそう思いますか。ただの錯覚だと、思いますか」
「別にそこまで言うてへんやん」
また口を閉ざすと、平子が顔を覗き込んできた。鋭い三白眼と視線がかち合う。案外強い目だった。
「錦、お前はどう思てんねん」
「え」
「お前はあいつが
「そりゃ……まあ…」
分かりにくい肯定をすれば彼は笑った。馬鹿にした笑みではない。「ほんならええやん」優しい声で、続ける。
「お前がそう思てんねんやったら、ええやろ」
誰のことでもない。二人のことだ。二人だけのことを、関わりのない第三者の言葉で左右される必要はない。彼はそう言った。
「…あの、ありがとうございます」
「気にしなや。カッコええ俺が悩める女の子の相談乗るのは義務やからな」
「…………………っく、ふ」
おかしな発言に口元が緩めば「そこ笑うとこちゃうねんけど」と平子が口を尖らせた。するとその直後「錦っ!」と懐かしい声が背後から聞こえた。振り返れば疲れた顔の弓親がこちらに駆けて来ているではないか。そのすぐ後ろには一角もいる。
「ゆみち――」
「こっっのバカ錦!!」
べしんっ!両頬が弓親の両手に包まれる。かなり勢いがあったからなのか痛かった。無理やり顔を上げられ怒り心頭な表情の弓親と目が合う。彼の自慢の羽根が焼け焦げていて、誰と戦闘したのかなと一瞬考えた。
「勝手に消えるとかあり得ないんだけど!!今までどこほっつき歩いてたの!?」
「ご、ごめんなさい…」
「敵わない敵が現れたら真っ先に逃げなよ!君は逃げて良いの!!」
まったくもう!と呆れ半分で言うと、弓親は乱暴に錦の頭を抱いた。いくら親しいといってもこういう触れ合いなどしたことがなかったので驚いたが、弓親もましてやそれを見ていた一角も恥ずかしがったりしていなかった。
「……大丈夫だったのか」
静かに訊ねる一角。短い一言だが様々な感情が込められているのを感じた。
「うん、大丈夫。………もう大丈夫」
割り切れていないこともある。しかし、彼と過ごした日々と生まれた気持ちは紛れもなく本物だったというのは、体験した錦が一番分かっていた。それだけは誰にも否定できない。否定させない。
深く語らずとも何かしら感じたのか、二人は同意した錦に対し目を見開いた。
「なんか意外だな」
「え?」
「うん、昔の錦に戻ったみたい」
その発言に、思わず笑みがこぼれた。