01
藍染惣右介という男が反旗を翻した。彼は五番隊隊長であり、人望が厚く、実力も相当だった。それなのに彼は、三番隊隊長である市丸ギンと九番隊隊長の東仙要を連れて尸魂界を去った。死神たちに、多大なる損害を遺して。
「めんどくさっ」
とはいうものの、芦屋錦からすればそんなもの“どうでも良い”という言葉で片付けられた。
元々やる気のやの字もない錦からすれば、そもそもの旅禍騒動の時点でどうとでもなれという気概だったし、そこに藍染たちの裏切りが加わろうが大した驚きにならなかった。というのも、錦は初対面の時から藍染のことが苦手だったのだ。あの始終穏やかな微笑を浮かべている様が不気味だった。こんなことを口にすれば雛森副隊長あたりに斬られそうだから誰かに言ったことはないが、まあ酒の場などでポロッと知り合いに漏らしても問題ないと思っている。おそらく向こうは錦のような別部隊の一隊員の顔など覚えていないだろうし、まず錦の存在を知っているのかすら疑問だ。だから今となっては敵である錦の言葉など眼中にないだろうし、そもそも芦屋錦とは誰だという話からになるだろう。
「ていうか、藍染は何で裏切ったんだろう」
給料に不満があったのだろうか。
「こら芦屋さん!なにをサボっているんですか!」
馬鹿なことを考えていたら副隊長の伊勢がどすどすと足音を立ててやって来た。「事後処理はどうしたんですか!」この副隊長は席次もない錦に、どういうわけか構ってくる。どれだけ上手くサボっても、最後の最後には必ず錦を見つけ出して説教するのだ。
「副隊長、暇なんですか?私に構ってないで仕事してくださいよォ」
「貴女がそれを言わないでください!」
まったく貴女はいつもいつも…!と小言を述べる彼女の脇を、そうっと通る。伊勢は怒り心頭なのか錦の気配に気づいていない。私は空気、私は空気と自身に言い聞かせながら錦は瞬歩でその場を去った。
事後処理などやっていられない。それが錦の率直な意見であった。あんなものは旅禍にやらせればいい。和解したのだからそのくらい命令してもどうせ拒まないだろう。それなのに何故死神たちだけに後片付けをさせるのか、錦には分からなかった。
「あっ」
するとふと、背後から男の声が聞こえた。感じたことのある霊圧だ。「なんだ、旅禍か」振り向くよりも前にそう述べれば「旅禍って呼ぶなよ…」という不貞腐れた返事が来た。
オレンジ色の髪に、身の丈ほどの大刀。
「黒崎一護」
「ンだよ、俺のこと知ってたのか」
「当たり前だろう」
むしろここで彼のことを知らない死神は一人たりともいない。
「で、何」
錦と黒崎は浅い仲だ。わざわざ声をかけられる謂れなどない筈だが。
「いや、アンタさ」
「芦屋錦」
「…錦サンさ、双極の丘でルキアと話してただろ?仲良いのか?」
朽木ルキア。今回の騒動の鍵となった死神だ。「…いや、あまり」たとえ廊下ですれ違っても黙礼しあう程度の仲だ。
「なんだ、ということは手がかりなしってことか」
「何?朽木女史に用があるのか」
どこ探しても見当たらねえんだ。と困った顔で述べる一護。
十三番隊隊舎、四番隊病棟、その他思いつく限りのところにもいないとなると、残る場所はただ一つ。
「志波邸、だなぁ」
目の前の男と、“あの男”を重ねながら、言う。一護は目を剥いてから「そこか!」と驚いていた。成程彼も詳しくはないが、それなりの事情を察しているらしい。
「ありがとな!錦!!」
礼を言うやいなや、一護は瞬歩であっという間に去って行った。
「…………何気に呼び捨てにするな」
文句を垂れてみたが、誰にも拾われず霧散した。